子供国王への風刺新聞

 「──では、今回の法律発表は以上です」


 ここは子供のような国王が治める国。といっても本当に子供なのではなく、精神性が子供っぽい王なのだが。さて、そんな国王が新しい法律の発表記者会見を行った。


 「す、すみません国王!」


 暗い顔をした記者が、発表を終えたばかりの国王へ問いかける。今回の記者会見は質問は禁止だったはずだが、彼はどうしても聞きたいことがあるらしい。いや、彼もというべきか。他の記者達は先を越されたと、口惜しそうにしている。


 「うん、なんでしょうか?」


 横柄とまではいかないが、国王は偉そうな態度で、でっぷりとした身体を記者へと向けた。


 「過去にも様々な法律が作られて来ましたけど、こんな法は見たことありませんよ!」


 うんうんと、周りに座っている記者達も一様に頷いた。皆、思っていることは同じなのだ。


 「よくぞ言ってくれました。確かにこの法はどの国もやっていないでしょう。宇宙規模でも存在しないかもしれない」


 「だから、何の意味があるんですかこれは!」


 「はぁ…。あなたは何も分かっていないようですね?ネガティブな考えは捨てるのです。全ては楽しむべきなのですよ」


 望まれていない法の制定への批判に、返されるのは屁理屈。何の答えにもなっていない。しかしここで憤慨してはダメだと、記者は冷静な問いかけをした。


 「…良く言えばそうなのかもしれないですけど。どうしたらこの法は終わるんですか?」


 来るべき終わりを知り、何とかこの悪法を素早く終わらせることができないかと、記者なりに思案して出た質問だった。が、


 「考えてませんでしたよ終わりは。…早く終わらせて欲しそうな言い草をしますねあなた?」


 そんなことが何故気になるのかと、国王は嫌味ったらしく返した。


 「単純に考えても、楽じゃありませんよこんな会話!私だから出来ているようなものです!全ての国民にこの法を施行するなんて、リスクが大きすぎる!」


 焼石に水かもしれない。けれどこの記者は記者として、それ以前に一人の国民として、この法は間違っていると声を上げなければならなかった。


 ろくに何も考えないで、思いつきでこんなことを法にする暗君を、どうにか説得する術は無いのか。頭を回転させ、ついに一つの方法を思いつく──。


 「…ルールに則って、国王が負けた場合は法を取り消すのはどうでしょうか」


 うん、これしかない。記者は覚悟を決めた。何時間でも何日でもいい。この男に張り付いて、奴を負けさせるしかない。


 「……考えましたね、いいでしょう。迂闊に喧嘩を売ったことを後悔しなさい。いいですか、私は簡単には負けません。……あっ」


 しーんと、会場が鎮まりかえる。国王の最後の言葉。「負けません」とハッキリ言った。そしてキッチリ、そこで終えた。


 「…!やった!国王が最後に『ん』と言った!これで『会話は一文ずつしりとりしなければならない法』は撤回になったんだ!」


 念願の、というか凄まじい速度の自爆で、『会話は人分ずつしりとりしなければならない法』はこうして撤回されたのだった。




 「──これですか?先輩が書いた、この前の記者会見の記事。…『子供のような国王』、『でっぷりとした身体』、『暗君』…なかなか攻めた表現ですね、そりゃ編集長に却下されるわけだ」


 「そこじゃねえよ」


 「えっ?」


 「お前知らないのか?この前バカ王がまた出した新法のこと」


 「あー、確か『地の文の頭文字を取ると文章になるようにしろ法』でしたっけ?意味分かりませんよね。ホント、あの人は子供の遊びみたいな法律を作る…」


 「で、その記事」


 「?」


 「法に則って、地の文の頭文字を繋げて読んでみろよ。漢字はひらがなに直して」


 「……アッハッハ!そりゃあ却下されますって先輩。──これじゃあどっちが子供か分かりませんもの!」

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