第一機動艦隊 日本海に集結

「米軍が動き出し始めましたか」


 朝鮮半島の南端、鎮海湾に入港していた旗艦信濃の艦橋に佐久田は上がった。

 ここは日本海海戦の時、連合艦隊の集結地となった泊地であり、大型艦船が多数入港出来る非常に良い場所だった。

 太平洋岸だと米機動部隊の襲撃を受ける恐れがあるのでできる限り艦艇はここに集結させていた。


「大和田の通信隊が米軍部隊の通信量増大と直後の途絶を確認した。確実に来るぞ」


 第一機動艦隊司令長官の山口が佐久田に言う。


「連中の動きは変わらないか?」

「確実に本土の飛行場を狙ってくるでしょう」


 山口の問いに佐久田は答えた。

 米軍の攻撃にはパターンがある。

 まず、攻撃目標周辺の航空基地を機動部隊で徹底的に叩き、目標への補給と増援を不可能にする。

 丸裸になった目標へ艦砲射撃を含む攻撃を行い、上陸部隊を送り込み占領するのが米軍のパターンだ。

 実際、マリアナでも上陸前に硫黄島やパラオへ攻撃を仕掛け航空基地を壊滅させてからサイパンへ上陸した。

 レイテでも、マニラやダバオ、台湾、沖縄へ航空攻撃を仕掛けてからレイテへ上陸した。


「今回も本土からの救援を阻止するため航空基地を狙ってくるはずです」

「では予定通りに作戦を発動する」

「はい」


 不機嫌な山口に佐久田は言った。


「<は号作戦>準備を発動。第一機動艦隊は北上、集結予定地点甲、日本海海上へへ向かいます」

「本土が空襲されるにも関わらず逃げるのか」


 山口の気に入らないのはそこだ。

 敢闘精神の旺盛な山口にとってそのような軟弱な方針など気に入らなかった。


「ですが、この後の作戦に必要な事です」

「分かっている」


 佐久田の立てた作戦<は号作戦>は読んでいる。

 気に入らなかったが、他に有効な代替案などない。

 勇ましく米軍機動部隊と戦ってもこちらの損害が大きすぎる。

 ならば佐久田の作戦に賭けるしかなかった。


「全艦に出撃命令! 集結地点甲に集結せよ!」


 予め決めておいた会合点、日本海津軽海峡西方へ向かうよう山口は艦隊に命じた。

 司令長官山口の命令を受け、各艦隊は出撃。移動中に周辺航空基地に展開、訓練している艦載機部隊を収容しつつ、第一機動艦隊は会合点へ集まる。

 この時期の日本海特有の海象の悪さ、日本海側に雪を降らせる嵐のような雲と風に悩まされながらも彼らは集まった。


「第一部隊、集結完了」

「第二部隊、集結完了しました」

「第三部隊、一部駆逐艦が嵐に煽られ遅れが出ています」

「第四部隊、六時間ほど遅れていますが、到着の見込み」

「第五部隊、間もなく集結します」


 次々と情報がやってくる。

 大型で比較的揺れの少ない信濃の甲板から偵察機が発着艦して周囲の状況を確認している。

 また弱出力の無線電話の中継により状況を把握していた。

 遠方まで届かない電波なので米軍に探知される恐れもないはずだ。


「補給部隊は?」


 佐久田は重要な部隊の状況を確認した。

 燃料がなければ艦隊は動けない。

 特に燃料の不足は連合艦隊の行動を制限している。

 タンカーの配備を各部署と掛け合うのが日常となっている。

 その中でようやく集めたタンカー部隊の動きが気になっていた。


「第一補給部隊は予定通り集結完了。機動部隊に続行しています。第二補給部隊は既に大湊を出港。目標海域へ先発しています。第三補給部隊は大湊に到着。命令あり次第、出港します」

「各艦への給油状況は?」

「到着した艦から大型艦より給油を受けています。大型艦は補給部隊と合流後補給予定です」

「艦載機の状況は?」


 山口は佐久田に尋ねた。

 いくら艦艇が揃っていても攻撃力の基本である艦載機が足りなければ意味はない。


「何とか定数を満たせたと言ったところです。搭乗員は新米が多いですが」


 北山重工の努力で何とか機体は確保できたがパイロットが足りなかった。


「問題なのは、整備員の方でして」


 幾ら高性能な艦載機でも整備員の完璧な整備がなければ飛ぶことさえ出来ない。

 工業化が遅れている日本では技術者が少なく学校でも殆ど工業系の授業はなく整備員は一般人に一から教えこむ事になる。

 そのため養成に時間が掛かる上、人数が少なく、航空部隊の間で取り合いになっていた。

 しかも数が少ない。


「作戦開始まで一週間以上ありますので、その間に整備を万全にして貰います」


 作戦当日と翌日は反復攻撃のため、大忙しだが、その前は最小限の哨戒飛行を除いて、飛ぶ予定はない。


「米軍は……本土に攻撃を仕掛けてくるか」

「間もなく仕掛けてくるでしょう」


 佐久田の回答はすぐに現実となった。

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