タッフィー3の死闘

「前方に敵艦隊!」


「凄い大艦隊だな」


 目の前に現れた第二部隊、金剛と矢矧に率いられた二水戦を前にしてエヴァンスは歓声を上げた。

 大和の砲撃を避けるため煙幕に隠れ、空母を狙う第二部隊へ向かって進撃していた。

 途中、味方の護衛駆逐艦サミュエル・B・ロバーツが展開した煙幕に紛れ、第二部隊へ接近する事に成功した。


「前方の敵艦に突撃だ! 連中の目を空母から俺たちに向けさせろ、いや、襟首掴んで引き寄せろっ!」


 後日ハーゲイ大尉が「人生で聞いた命令の中で最も勇敢な命令だった」と語る命令をエヴァンスは命じた。

 使用可能な主砲を突撃する矢矧と二水戦へ向け、打ちまくった。


「撃てっ! 撃ちまくるんだ!」


 ジョンストンは第二部隊へ砲撃しながら突撃していく。

 だが、第二部隊、矢矧と二水戦からの反撃も熾烈だった。

 軽巡と駆逐艦一六隻、更に重巡と戦艦まで加わった砲撃は雨のようにジョンストンに降り注ぐ。

 落ちてくる大口径砲弾が作る衝撃波と水柱による波、そして爆発に晒され翻弄されるジョンストンはさながら子犬がトラックに跳ね飛ばされるが如き様相だった。

 そして、ジョンストンにも命中弾が加わる。

 さすがに戦艦の主砲弾は命中しなかったが、駆逐艦の多数の砲弾を受けていた。

 先の砲撃も含めて五基ある砲塔の内三基が使用不能、機関室も半数が浸水し速力は一七ノットへ低下。

 今回の砲撃で艦橋直下に被弾し、対空砲の弾薬庫に火が点き炎上。

 艦橋の機能を停止させた。

 さすがに指揮不能でエヴァンスは、後部へ移動し舵機室の上に行き、ハッチから指揮を続けた。


「艦長」


 応急指揮をしていたハーゲイ大尉が、エヴァンスに言う。


「分かっている」


 言いたいことはエヴァンスも理解しており、にやりと凄惨な笑顔を浮かべて言った。


「どれだけの勇気や度胸があっても俺たちは助からない……だが俺たちが、立ち向かえば、あの空母達を助ける事は出来る。一分でも時間を稼ぐんだ」

「……ラジャー!」


 なおも闘志を燃やすエヴァンスの勢いに当てられジョンストンはなおも戦い続けた。

 揚弾機が破壊され20キロ以上の砲弾を手作業で砲塔へ送り込み、油圧ポンプが停止した舵機を手動で操作し、なおも戦い続けた。

 だが、さすがのジョンストンにも最後が訪れようとしていた。

 二水戦の砲撃により、残っていた機関室も浸水、機関停止。動力が停止し動けなくなり、艦内の電源も切れた。艦内電話も通じなくなり、戦闘不能。

 奇跡的に生き残っていた第四砲塔だけは砲撃を続けていたが、度重なる砲撃にジョンストンの船体は海に沈もうとしていた。


「総員退艦せよ」


 最早、戦闘不能と判断したエヴァンスは生き残った部下に命じた。


「畜生め、防げなかったか」


 部下が艦を離れていく先で、敵艦隊が味方空母へ向かっていくのをエヴァンスは見ていた。

 鈍足の護衛空母が日本軍の高速水上艦部隊から逃れられる訳がなかった。

 トドメを刺されるとこを見るしかないと悔しさを滲ませたエヴァンスだったが、驚愕の光景を見ることになった。




 一方サミュエル・B・ロバーツにも最後が訪れようとしていた。


「前方に敵艦隊!」


 ジョンストンが展開した煙幕を突き抜けた先には第一部隊が展開していた。

 魚雷攻撃により一時は混乱していたが、南雲の的確な操艦指揮により、回避に成功。

 素早く追撃に移り、タッフィー3に接近していた。


「前方の敵と交戦する。皆、義務を果たすんだ!」


 コープランド艦長の命令でサミュエル・B・ロバーツは再び突撃を開始した。

 既に先ほどの第二部隊との交戦でボロボロになっていたが、味方を逃がすために激しく交戦した。

 特に後部砲塔は激しかった。

 後部砲塔担当のポール・H・カー兵曹は、先の攻撃で致命傷を受けながらも用意された全ての主砲弾を撃ち尽くし、一度は後退したが、予備の砲弾を持って後部砲塔に戻り、一発を発射。

 仲間が駆けつけた時には、既に息絶えるという壮絶な戦死を遂げていた。

 その反撃を受けた第一部隊も応戦。サミュエル・B・ロバーツに命中弾が出た。

 砲弾はボート・デッキに命中し第二機関室に長さ12メートル、幅3メートルの亀裂が入った。

 小型の護衛駆逐艦には大破、致命傷とも言える損傷だった。

 だがサミュエル・B・ロバーツは砲撃を全弾を撃ち尽くすまで続けた。


「艦長! 本艦に残弾なし!」

「総員退艦せよ!」


 部下の報告と砲塔が沈黙したことから戦闘力が無くなったと判断したコープランド艦長は命じた。

 既に浸水も始まっており、沈没前に生き残った部下を、義務を果たした部下に対して出来る自分の義務を果たそうとした。


「私は義務を果たせたのか」


 ボートへ移乗する時コープランド艦長は小さく呟いた。

 敵は圧倒的だったが、それでも義務を果たせたのか、コープランド艦長は気にしていた。

 護衛空母を日本の主力艦隊から守り切れる方法は無かったのかと思った。

 敵の戦艦が、護衛空母に向かって砲撃を行っている。

 紙に等しい装甲しかない護衛空母などあっという間に撃沈されるだろう。

 特殊な砲弾を使っているようで、空母が次々と炎上していく様子をコープランド艦長は自分の行動の結果として受け止めるため見ていた。

 だが、予想外の光景をコープランド艦長は見る事になる。

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