サマール沖海戦 開幕
「矢矧より通信! 敵空母発見! 敵空母六他多数発見! 繰り返す! 敵空母発見!」
「空母だと!」
敵と接触した矢矧の報告に第一遊撃部隊司令部は色めき立った。
空母。
今次大戦で戦艦に代わり主力となった空母。
かつて主力であった戦艦は彼らの援護がなければ行動出来ないし、空母を護衛するのが任務となった。
それが、今目の前に現れた。
それも主砲の射程距離内に。
航空機の圧倒的な航続距離により主砲の十倍以上の距離から攻撃出来る空母に戦艦いや、艦艇が接触することはほぼ不可能だ。
珊瑚海海戦では、史上初めて最後まで相互に相手艦艇を視認するこのない海戦、航空機のみを使った戦闘が行われ航空機が主力である事を証明した。
以後も空母機動部隊の戦いは続き落後した艦艇を追撃で仕留める以外――南太平洋海戦で放棄されたホーネットを追撃で仕留めた時以外、空母を視認することはなかった。
その空母が、今、自分たち戦艦部隊の目の前にいる。
戦艦が力を発揮する状況が揃いつつあった。
「ハルゼーの機動部隊と接触出来たか」
宇垣は感慨深く言った。
実際にはハルゼーの機動部隊は機動部隊を追いかけて遙か東方に向かって進撃中だった。
目の前にいるのはハルゼーの第三艦隊ではなく第七艦隊で正規空母ではなく護衛空母なのだが、戦場の混乱と興奮で誤認していた。
「戦闘! 全艦戦闘配置! 攻撃する!」
南雲は直ちに戦闘を決断し宣言した。
レイテに突入するのが命令だが、手前に敵が控えているのであれば、撃滅しなければならない。
もし無視してレイテへの進撃中に航空機の攻撃を受ければ大損害を受ける。
ここで仕留める必要があると判断し、戦闘を命じた。
「第二部隊には突撃を命令。第一部隊は砲撃開始。宇垣君。砲撃の指揮を執り給え」
「宜候!」
南雲の命令に宇垣は答えた。
水雷が専門である南雲ではなく砲撃が専門の宇垣に指揮を執らせた方が良い。
その状況で適した者に指揮を執らせるのも司令官の役目だ。
だが、同時に時間がない。
レイテへ突入するために第一部隊の駆逐艦は残して置く。第二部隊の駆逐艦に敵空母の仕留めさせるつもりだった。
「第一戦隊、単縦陣。右砲戦、各個に照準。撃ち方始め!」
宇垣は流れるように命令を下した。
直ちに大和、武蔵、長門の各艦が単縦陣を形成。
取り舵へ切った大和を先頭に敵を右に捉えつつ、砲撃準備をする。
各艦の全ての主砲が敵艦へ向かって旋回し、空に向かって砲口を上げると発砲した。
「司令部より第二部隊に突撃命令です!」
「おお! 来たか」
電文を読んだ第二水雷戦隊司令官古村少将は、喜んだ。
二十年以上に及ぶ海軍生活を送ってきたのはいつの日にか敵艦に魚雷を撃ち込むためだ。
それを水雷戦隊司令官として行けるのは好ましい。
「突撃だ! 敵空母の退路を断つ! 回り込んで雷撃を食らわせろ!」
古村は二水戦をタッフィー3の南側から囲むように進撃させた。
足下からタービンが勢いよく回る振動が伝わってくる。
同時に背後から衝撃音が響いた。
「大和発砲!」
後方の大和が発砲しその衝撃波が二水戦まで届いたのだ。
振り変えると大和の手法から盛大な発砲炎が上がっていた。
炎は一瞬で消えたが、吹きだした黒煙が周囲を漂い一瞬大和を隠すが、二七ノットの最大戦速で走っていたためすぐに現れる。
そして再装填を終えた主砲が再び火を噴く事を繰り返しあたかも活火山の噴火のような様相を呈する。
「遅れるな! 機関最大戦速!」
大和の主砲戦場に展開しないよう、回り込ませる事にした古村の指示は正しかった。
まあ、南雲長官なら仕返しとばかりに古村が射線上にいても撃っていただろう。
古村が筑摩艦長時代、南方作戦支援の時、発見した商船を撃沈するよう駆逐隊が命令を受け向かったが、中々撃沈できないのを見て苛立った古村は、発砲を命じた。
旗艦赤城の頭上を通過させて。
初弾命中させたが、乗艦越しに撃ったことを温厚な南雲長官も流石に怒った。
外れ弾が赤城に命中したらことだし無理もない。
指揮下の二水戦に大和の砲弾が降り注ぐことを避けるためにも、迂回しながら敵艦隊の包囲に向かった。
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