大和参戦
「状況は! 味方はどうなっている!」
戦艦アイオワに座乗するリーは尋ねた。
「激しく打ち合っています!」
「そんな事は分かっている!」
リーが聞きたいのはそんな事ではなかった。
激しい砲撃戦が展開しているのは見ていて分かる。
問題なのは、どれが味方でどれが敵か不明だ。
味方の位置を示すプロットは既に混乱で機能喪失。レーダーも洋上の物体を見つけ出すだけで敵味方の識別まではしてくれない。
無線電話で問いかけようにも、全ての海戦で味方が怒鳴り合っているため、使用不能だ。
「接近する艦影あり!」
見張りが報告してきたが、敵か味方か分からない。攻撃してくる敵か、あるいは撤退してきた味方かもしれず撃てなかった。
「接近する艦影、転舵します」
「しまった! 敵だ!」
雷撃するときは狙いを付けやすくするため緩やかな旋回を行い魚雷を発射する。
その動きで雷撃をしようとしていることが分かった。
「回避運動! 副砲射撃! 敵駆逐艦を撃退せよ!」
リーは直ちに命じたが、通信の混乱により退避が遅れた。
アイオワに魚雷が一本命中し、激しい動揺が走る。
九〇〇キロの炸薬を積み込んだ三式酸素魚雷の威力は凄まじく、機関室が一つ浸水し速力の低下が起こる。
しかし、アイオワはシフト配置もあり被害は軽微で済んだ。
だが続行する味方艦は回避行動が遅れたこともあり、数本の魚雷を受けたインディアナとアラバマは速力半減し遅れだした。
マサチューセッツは不幸だった。
三本の三式酸素魚雷が命中。内二本が船体中央部の至近へ同時に命中し、船体を切断。
世界に誇るアメリカ海軍のダメージコントロール能力でも分断された船体をどうにかすることは出来ず、命中して三分後、後部が沈没、一分後には前部も艦首を空高く上げて沈没。
轟沈となった。
それでもリーは態勢を立て直そうとしたが、新たな砲火が降り注いだ。
「敵戦艦に多数の水柱が上がっています」
「よし」
大和の第二艦橋に座乗する宇垣は報告に頷いた。
敵の戦艦と砲戦できるのは大砲屋として喜ばしい。
だが夜戦だと見えづらい。
敵戦艦が吹き飛ぶところがよく見えない。
「夜明けまでに仕留める。砲撃用意」
しかし、航空機の活動を考えると夜戦しかなく宇垣は砲撃準備を命じた。
その時、前方で砲火が上がった。
「味方の水雷戦隊が敵戦艦の砲撃を受けています!」
突撃を行った駆逐艦を迎撃するべく敵戦艦の副砲が放った砲火が視認できた。
好機だった。
敵の位置が判明しているのだ。
それも戦艦を仕留められる好機を逃すわけにはいかない。
宇垣は命じた。
「第一戦隊砲撃開始!」
「撃ち方始め!」
「撃てっ」
艦長、砲術長の順に命令が下り大和の四六サンチ砲が火を噴いた。
1.5トンの徹甲弾が音速の二倍の速度で飛んで行き、敵戦艦に雨あられと砲弾を降り注ぐ。
先頭を走っていたアイオワに四六サンチ砲が命中した。
三三ノットの高速を発揮できるため素早く戦場に到達出来たが、それが仇となった。
一六インチ砲対応の防御が施されていたが、四六サンチ――、一八インチには対抗できない。
易々と装甲を貫いた砲弾は第二砲塔で炸裂、周囲の装薬を誘爆させた。
内部からの誘爆によりアイオワは船体が切断され、破孔から大浸水が起こり、そのまま沈んで仕舞った。
「敵戦艦撃沈!」
「轟沈だ!」
「砲撃を続行せよ」
歓声を上げる艦橋内で夜戦指揮官の宇垣中将は静かに命じた。
砲撃は継続され、武蔵の他、長門と陸奥も砲撃に加わる。
ニュージャージーはアイオワの轟沈を見て、撤退を始めた。
インディアナとアラバマも続くが、元々速力が遅いのと駆逐艦による魚雷攻撃で受けた浸水のために落後する。
そこへ大和以下の戦艦部隊が砲撃を行う。
次々と四六サンチ砲と四〇サンチ砲が降る中、二隻の米戦艦は炎を上げ、沈没しつつあった。
「北寄りの針路を取れ」
宇垣は艦隊を南方から北方へ米艦隊を追い立てるように進撃させる。
「敵艦発砲」
見張りの報告の後、強い衝撃が大和を襲う。
敵艦の砲撃が命中したのだ。
「被害報告!」
「第一砲塔に命中弾。装甲がはじき返して被害はありません」
報告に宇垣は安堵した。
対四六サンチ防御の大和では米軍の四〇サンチ砲など跳ね返せる。
後続の長門、陸奥も砲戦に加わった。
だが敵の攻撃は先頭の大和に集中していて被害はない。
やはり大和を先頭に突撃させて正解だった。
ビッグセブンの一角とはいえ、既に建造から二〇年以上経っている老朽艦であり、新型艦を相手にするのは骨が折れるだろう。
その点、就役して三年も経っていない大和なら防御に優れているので大丈夫だ。
その後も、度重なる米戦艦の砲撃を受けたが、大和は耐えきった。
敵に圧力を掛けるため敵の反撃を熾烈だが、重厚な防御力を誇る大和は耐えきった。
今のところ快調に戦いを進めていたが、宇垣は時間が気になった。
夜が明ければ敵艦載機が飛んでくる。
いくら世界最強の大和でも制空権のない海で戦闘を行うことは想定していない。
敵機の集中攻撃を食らって撃沈されるのが落ちだ。
だからといって時計を見ると、部下に余裕がないことが伝わり動揺が広がる。
上官として悠然と余裕を持っているように見せかけなければならない。
それが戦況と共に巨大な重荷となって宇垣に襲いかかる。
だから宇垣は待った。待ち望んでいる報告を。
「第二連合水雷戦隊より報告! 作戦終了!」
「全艦に通達。進路を北へ。作戦通りに戦場を離脱する」
周囲から不満の声が上がる。指揮下の艦艇からも攻撃続行を望む声が上がるが宇垣は押さえつけた。
航空機が発達した今、敵制空権下で艦艇が活動できるのは夜間のみだ。
幾ら史上最強の戦艦大和でも航空機の集中攻撃により撃沈されかねなかった。
米軍の空襲が始まる前に、夜が明けてすぐに味方の防空圏へ入らなければ危険だった。
「我々には守らなければならない存在がいるのだ」
宇垣は強く部下に命じ、離脱させた。
やがて、サイパン島に突入した指揮下の艦艇が接近してきて合流。北上を開始した。
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