米第五艦隊防空戦

「あー何とか凌いだな」


 旗艦エンタープライズのCDCでFCDOのジェファーソン少佐は安堵のため息をついた。

 艦隊の情報が集まってくるCDCから敵機の行動を把握し味方迎撃機に指示をするFCDO――ファイターチーフデレクオフィサー、先任戦闘管制士官責任者だ。

 艦隊すべての戦闘機を管制し迎撃するのが仕事だ。

 これまではマリアナの陸上飛行場から散発的な攻撃はあったが少数で仕事は楽だった。

 だが今日の午後になってから今までにないほどの攻撃機がやってきた。

 第一機動艦隊の偵察機が機動部隊の位置を通報したことにより小沢は直ちに出撃を命令。

 残っていたテニアン、グアムより空襲からの残存機を以て攻撃隊を編制し、出撃させた。

 しかし、上手くはいかなかった。

 出撃準備がまちまち、空襲による損害がまちまちで復旧と出撃準備に時間差が出来てしまい、よく言って波状攻撃、正確に言えば各個に攻撃する事になった。

 そのため波状的な攻撃となり米機動部隊は順に迎撃に出ていった。

 順繰りに戦闘機を出してその都度対処していたが、数が多い。

 しかも、敵は三式攻撃機を出してきた。

 開戦から繰り返しの攻撃で撃墜されていった一式陸攻の防弾機能に疑問を抱いた日本海軍は、根本的な改修を決定し、改造を行った。

 長大な航続距離――零戦さえ凌駕する航続距離は不要とし作戦半径を一〇〇〇キロ以内に設定し、余った分を防弾に回した。

 後方の基地から空中で合流する作戦も提案されたが、別々の基地から飛び立つ時の連携が問題となり却下となった。

 改修は徹底しており、被害減少のため燃料タンクの使用順位――打ち抜かれやすく防弾のしにくいインテグラルタンクから使用し防弾タンクのある胴体部タンク分で帰還するように徹底させた。

 使い切ったインテグラルタンクも残存燃料を投棄した上、不活性化ガスを充填するよう指導。

 エンジンも換装され出力が向上、その分の余力も防弾に回された。

 これらの改修の結果、一式陸攻とは別物の強固な陸攻が出来上がった。

 少なくとも米軍の標準航空機銃ブローニングM2五〇口径機関銃に最初の一撃には耐える程度には強固になった。

 ワンショットライターと呼ばれた頃の陸攻とはまるで別物となってしまった。

 撃ってもなかなか、撃墜できないのだ。

 しかも敵には護衛戦闘機が付いている。

 護衛戦闘機を戦闘機で排除し、その上で陸攻を攻撃するが、一気落とすのに時間がかかる。かといって悠長に時間をかけていたら味方が雷撃されてしまう。

 結果、大量の戦闘機を、最終的に艦隊すべての戦闘機を東側に集めることになってしまった。

 ピケット艦の消耗も激しく東側に駆逐艦を増援することとなった。

 だがまもなく日没。

 この後航空攻撃が行われることはないだろう、とジェファーソン少佐は判断していた。

 戦闘機の消耗も激しく順次母艦へ帰還を命じている。

 そのため戦況を示すアクリルボードから徐々に戦闘機の数が減っている。


「チーフ、駆逐艦コニーから報告です」

「何もいないだろう」


 ぶっきらぼうにジェファーソン少佐は答えた。

 コニーは西の包囲配備されている。

 マリアナからやってくるジャップの航空隊を迎撃するためピケット艦の大半を東に回している。


「東に回さないでくれと言っているのか」


 午後になって日本側の攻撃が活発になった。

 迎撃に成功しているが、被害に配備されたピケット艦の大半が撃破された。

 そのため急遽西側のピケット艦を東側へ配置しているが、それも損害を受けている。

 攻撃されないよう西側に留めてくれとコニーは嘆願したいのだろうか、とジェファーソン少佐は思った


「敵攻撃隊発見です! 数一〇〇以上、更に増大中! 距離はコニーから二〇海里」

「まさか!」


 誤報じゃないかとジェファーソン少佐は思った。

 敵の攻撃は撃退した。

 敵の空母からやってくるにしても今からだと帰還は夜間になり着艦事故が多発する。

 だからマリアナ方面へピケット艦を回したのだ。

 念のためにコニーを残しているが、少数の敵機が回り込んでくるのを防ぐためだ。

 一〇〇機以上の大編隊が現れる訳がない。


「レーダーはどうした!」

「低空侵入のため見つけられませんでした」


 レーダーは電波を飛ばして遠距離を捜索できる。

 だが、電波を遅れる範囲、見通し距離しか使えない。

 地球は丸いため、水平線の向こう、地球の丸みの陰に隠れた敵機、海面すれすれを飛ぶ敵機はレーダーの設置位置から見える範囲まで接近しないと発見できない。

 その死角を突かれた。


「コニー敵機を視認! 敵機の攻撃を受けつつあり、至急援軍を乞うとのことです。数は二〇〇以上、更に増大中。現在対空戦闘を開始。いつまで持つか分からないと言っています」

「直ちに、出ている戦闘機隊を出せ!」


 緊急事態ということをようやく理解したジェファーソン少佐は命じた。


「迎撃で燃料と弾薬がなく補給のため着艦しています」

「出せる機体から出すんだ! 一機でも早く上げろ! 急がないとえらいことになるぞ!」


 マリアナからの攻撃に対処するため西側に戦闘機が集中している。

 しかも連日の攻撃と今日の迎撃で、戦闘機隊は疲弊している。

 それに攻撃はもう無いと判断し、一部には着艦を許可していた。

 今米機動部隊の上空には戦闘機が少ない。

 その隙を山口の第一機動艦隊は見事に突いた。

 ジェファーソン少佐は何とかピケットラインで攻撃を止めようとしたが、既に手遅れだった。

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