『なまくら冷衛の剣難録』第四章第三話までの感想

なまくら冷衛の剣難録

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927863238741872


 冷衛たちの加勢によって暗殺者たちの失態を美夜からきいた春日爾庵誠之助は、美夜の忠誠心を確かめた上で、冷衛と小竜の殺害を明言し、黒衣も信頼に応えてくれるはずだと念を押す。

 黒衣に敗れ弱気になるも改めて小竜の依頼を果たそうと誓う冷衛は、士郎次から真人の事件の裏に春日爾庵誠之助が関わっていることがわかり、明日の夜に三人で訪ねることにした。


 色々なことが次から次へと明かされながら、これ以外に方法はないのかな、と選択肢が徐々に狭まっていく展開が、読者を物語の架橋へと誘ってくれている。

 もはや黒衣との戦いは避けられない感じ。

 

 春日爾庵誠之助が美夜からの報告を聞いて、「まさか、信頼していた手勢を差し向けて失敗の報せを聞かされるとはな。雨天は敗北、シンべヱは戦意喪失か」「だが、黒衣が標的を殺し損ねたというのは、どういうことだ」「士郎次だけではない。予定外のこととはいえ冷衛と小竜が現れたのならば、そやつらの命も奪うべきであった」と問いただしている。

 お怒り、至極ごもっとも。

「炎衣士郎次率いる御馬前衆を明夜殲滅せよ」「総勢は二十名ほどだが、警察とも連携しているというので敵は三、四十人にはなるだろう」と伝えており、御馬前衆全員を殺すのが目的だった。

 連携している警察も殺せと言われているので、邪魔者すべて排除するのは当然。

 なのに、結果はそうではない。

 司令側と実行側との意識差のせいだ。


 春日爾庵誠之助は、現場に結果達成と臨機応変さを求めている。

 対して、暗殺者たちはどうだったか。

 仲間が殺されたからと戦意喪失して受けた依頼を放棄して戦線離脱したシンベヱ、冷衛に負けて気絶し意識を取り戻して逃げ出した雨天、深手の士郎次と手傷を負って刀を払われた冷衛と銃を撃たない小竜に止めをさざすその場を離れた黒衣など、役目以前に私欲に走っている。

 お金をもらって仕事を受けたなら、途中で投げ出してはいけない。

 プロ意識に欠けている。

 どうやら彼らは、アマチュア暗殺集団のようだ。

 仕事前に誓約書を取り交わし、違反者には罰則を与えることを徹底させていなかったのだろう。

 所詮ならず者の寄せ集め、約束を守れない人間だから道を外れた、と思われても仕方がない。


 黒衣が雨天を始末したのは、なぜか。

「違うっす……、違います。逃げるのではなくて、必ず冷衛と士郎次は殺害します。だから……」と再戦を求めても許さなかったと見ることもできる。

 だが、春日爾庵誠之助は「雨天は敗北」「雨天は所詮のこと下賤な暗殺者だ」とあるように、昨夜の一件で死んだことのみ報告がされている。

 黒衣が雨天を殺したのは「必ず冷衛と士郎次は殺害します」と言ったからだと思われる。殺されては困る理由が、黒衣にはあるのでは、と想像する


 報告を受けた春日爾庵誠之助は、「士郎次だけではない。予定外のこととはいえ冷衛と小竜が現れたのならば、そやつらの命も奪うべきであった」「これ以上、目障りな者どもが増えるのも厄介だ。やはり冷衛と小竜も始末することにするか」と言っている。

 由比太は?

 彼もいたのだけれども、報告されていないのかしらん。

 だとすると、黒衣が広場に現れたのは冷衛と雨天が戦ったあとなのだろう。もし、雨天たちと増援の連中を始末していたのなら、暗殺者六名と斬りあった由比太を見ていてもいいはず。

 それまでどこでどうしていたのかしらん?

 それともはじめから広場にいて様子を見ていた?

 由比太が戦っているところを見ていたけど、初顔だったので報告しなかった、とも考えにくい。


「今日は城の様子を探らねばならないが、炎衣士郎次は私の裁量で抑えこむことができよう」 

 すでに役職から外れている彼は、どうやって城の内情を探るのだろう。教えてくれる人がいるに違いない。

「私の裁量」とあるけれど、どんな裁量なのかしらん。


 炎衣士郎次は「御馬前衆第三番隊隊長」である。

「戦時には王の直属部隊となる花形の職務。平時には警察と協力して犯罪者の排除に当たる。警察と異なるのは、御馬前衆の目的は犯罪者の排除、つまり犯人の生死は問わないということだ」と説明があるとおり、王の直属部隊である。

 おそらく当主の警護を司っている。普段は王城にいるので、たいした警護は必要ない。が、王城を離れる際は重要な部署のはず。

 昨夜、士郎次以外殺されてしまった御馬前衆は、全員ではないだろう。炎衣士郎次は御馬前衆第三番隊隊長なので、三番隊が殲滅されたとみるのが自然。

 つまり、第一番隊、第二番隊がまだいる。

 第四番隊や第五番隊もいるかもしれない。

 ただし、隊を分けて存在しているということは、隊ごとに役割が異なるはず。たとえば第一、第二部隊は有事の際に任務があり、第三部隊は平時の任務、第四部隊は武器等の管理、第五部隊は経理といった具合に。

 なので現在、警備が手薄。公国に入り込む犯罪者の排除ができない状況になっているだろう。

 春日爾庵誠之助があえて第三部隊殲滅を狙った目的は、当主をはじめとする位の高い人たちの警護をdけいなくするためだったのだ。

 これから大きなことが起きるに違いない。


 美夜が「卒爾ながら」と春日爾庵誠之助に考えを伝えたとき、「冷衛様は小竜なる者の依頼によって動いているとのことです。小竜を亡き者にすれば、依頼主を失った冷衛様は手を引くのではないでしょうか?」と口にしている。

 以前、「お前はいつになく冷衛のことを気にかけるな。『冷衛様』か……。そんなに奴のことを好いていたのか?」と言われ、その後、タンポポの綿毛に吐息をふきかけ飛び去っていくのを見ながら「冷衛への未練を断ち切ったように、美夜は敬愛する主の待つ邸へと帰って」いるけれども、未練は断ち切れていなかったのだろう。

 未練を断ち切っているのなら、「冷衛様」とは呼ばない。

 もし美夜が黒衣でないなら、雨天が逃げようがシンベヱが戦意喪失して離脱しようが関係ない。春日爾庵誠之助の命令を受け、間違いなく小竜、冷衛、士郎次を斬っただろう。


 庭の花に目を向け、十年の忠義を形のあるもので再確認させるところは、春日爾庵誠之助の年の功を感じさせる。

 美夜に「私が閣下より花の世話をお申し付けられてから、十年にもなります」と語らせ、「私も閣下のお言葉は忘れません。『そんなに花が好きならば、ここはお前に任せる』。そう仰ってくださいました」思い出させ、「はい。私の心は閣下とともにあります」「……黒衣は、閣下に多大なる恩があります。必ずや閣下のご期待に沿う働きをするでしょう」自身の口を以って明言させる。

 決して、無理強いをしていない。

 十年の歳月を持って、懐柔させてきたのだろう。

 受けた恩は返すというやり方で。

 

 一般論として、恩を返すとはどこまで返すかが個人的に気になる。

 なにかしてもらったからできることを返す。それで終わりのはず。なのに、恩着せがましく、「あのとき世話してやったから」と事あるごとに持ち出して、思いどおりに相手を動かすのは恩返しではない。愛玩動物、道具と同じである。

 なので、世話になった人に恩返しするとき、返す側がなにを返すかを一つだけ自分で決めて行う方がいい。

 

 美夜のように、生殺与奪を握られて手元に置いて面倒を見てもらっている状況では仕方ない。


 黒衣に敗れたときのことを、「彼我の力量差はまったく縮まっていなかったと回想されている。

 冷衛は黒衣に圧倒され、再び大きな失態を見せたのだ。黒衣が見逃さなければ、冷衛は誰も守れずにあの場にいた者は皆殺しにされていただろう」とも書かれている。

 失態を見せたには違いない。

 彼我の力量差を推し量るほど刀を交えて戦ったかといえばどうだろう。冷衛は小竜の前に飛び出しては刀を振るい、黒衣の剣で弾き飛ばされた。あっさり敗れた感じが否めない。

 二年前は剣を交えて戦い、刀を折られるまで肉薄していたので、それにくらべたら力量は縮まったどころか劣ったといっていいかもしれない。

 純粋に剣技に敗れて落ち込んでいるのであって、黒衣が何者なのか考えにも至っていないことを現している。

 なので、昨夜は純粋に黒衣を恐れて醜態を晒したのだ。

 

「朝から焼酎を飲み続けている」とある。

 彼は金欠なのに、焼酎を買うお金はあるらしい。

 高齢者が食事の代わりに焼酎を飲むみたいに、焼酎が冷衛の食事に思えてならない。


 冷衛視点で書かれていた所、小竜が訪れてから視点が変わる。

 おそらく神視点と思われる。小竜が去った後、また冷衛視点で書かれる。そのせいか、途中がモヤッとしてしまう。


「昨夜、士郎次は一件の報告をするために応急処置を済ませて城へと向かった」とある。

 怪我で休んでいるわけにはいかない。そもそも部下を皆殺しにされて、首謀者の一味を取り逃がしている。報告しなければならないし、咎めもあるかもしれない。

 

「由比太も体調が芳しくないとのことで、小竜を冷衛に任せて一人帰路を辿った」とある。

 肺を患っている手前、無理はできない。

 昨夜は彼にとって、相当無理をしたと思われる。


「由比太も様子のおかしい冷衛に気づかわし気な一瞥を投げたものの、その理由を問うようなことをしなかったのは、狷介な冷衛の性格を知悉していたからか」と推量が書かれている。が、これは誰の視点なのか。神視点かしらん。

 

「夜遅かったため、小竜は冷衛が自宅まで送り届けた。道中、小竜が話しかけるのも躊躇うほど冷衛の顔は蒼白になっていたはずだ」

 送り届けたのだから冷衛視点か神視点。

 そのあと「顔が蒼白」とあるので、小竜視点かな。でも「はずだ」とあるので、冷衛視点と思われる。

「まさか朝になっても、その顔色が変わっていないとは思いもしなかっただろう」神視点かな。冷衛視点だとしても、自分の顔色が悪いといつどこで気づいたのだろう。

 視点がわかりにくい。

「むしろ、酒の酔いがその顔を余計に青ざめさせているようにも見える」これは小竜視点かしらん。モヤモヤする。


 昨夜の戦闘後、小竜を家まで送り届ける道中、灯りを持っていなかったので月明かりで帰ったはず。

 月明かりで顔面蒼白までわかっただろうか。

 帰り道、冷衛は一言も話さずにいたかもしれない。普段からおしゃべりではないとはいえ、手傷も負ったし、相手には逃げられたわけなので口数も少ないのも当たり前。それでも様態を気にして、様子を見に来たとき小竜ははじめて、顔色悪いと思い、お酒を飲んでるからかもしれないと思ったから、「身体は大丈夫ですか。お酒を飲んでいるから心配しなくてもよさそうですけど」と言葉をかけるにつがなる気がする。

 説明しすぎかしらん。

 

「悪いが、俺は力になれないようだ。別の人間を雇った方がいいかもしれん」

 と、断ろうとする。

 強いと言われた真人はもういないし、警察は昨夜の一件で暗殺者に敗れるほど頼りにならなかった。御馬前衆も同様で、冷衛のライバルで叶わなかった士郎次は怪我をし、若手最強と言われた由比太は病を抱えている。

 実質、冷衛が剣客の中では一番頼れる存在なのだ。

 そんな人に力になれないと言われたら、他にアテがないのだから落ち込むのも当然である。


 そもそも、冷衛が小竜の依頼を受けようと思い立った理由はお金。その後、黒衣が絡んでいると知って引き受けた。

 その黒衣と戦って負けた。けど、冷衛が死んだわけではない。

 とはいえ、いまのままでは勝てそうもない。だったらいっそのこと、大人しくしていれば殺されずにすむのでは……と考えるのは無理からぬこと。

 でも相手は暗殺者。大人しくしていても、通りを歩いているときや寝込みを襲いに来るかもしれない。

 手を引くには公国を出るしかない。冷衛は独り身で継ぐ家もなくなったので可能だが、公国を出たところで頼れるツテも金もないのだから、現実的な選択肢ではない。


 立ち直るところで冷衛が思い出したのは、小竜の依頼を受けて過ごした日々の充足感と「真人の家から出てきた小竜の双眸に泣いた跡があった夕方の光景」とある。

 ペット探しと師匠の道場の手伝いをする二年間、御前試合に出ることもなく、活躍の場もない日々と比べれば、この数日は旧友たちと語り剣を振るい、生きている実感が湧いたに違いない。


「……あの娘は深い悲しみを背負いながらも、いつも闊達な物言いで俺を励まし、真人のために怒っていたではないか。小竜さんの感情はいつも他者のために注がれていた。自身の悲しみをひた隠して」

 そう捉えることはできるかもしれないのだけれども、棘のあるいじりをしたりよく食べたりしていた小竜の印象が強いせいか、「自身の悲しみをひた隠して」たのかしらん……たしかに、そういう場面はあった。

 登場する場面の多くは明るい表情をしているから、考えてしまう。人は見た目ではわからないので、明るくしていても、内面では悲しみ続けていたのかもしれない。

 気丈に振る舞いながら平静さを装いつつ、着物の縁を握りしめる様子でも描写してあればいいのかしらん。

 発奮して「やはり俺がどうかしていた。俺に最後まで協力させてくれ」と頼み込む流れは良いと思う。


 士郎次から、昨夜の一件が「城下町に潜入していた他国の諜報員を捜査し」「双方が相打ちになった」ことが語られる。また、異議を申し立てると、「上層部うえから叱責を」受け、「部隊を全滅させた失敗のせいで、半年間の謹慎処分を受けてしまった」という。

 もみ消しである。

 さすが春日爾庵誠之助。

 迅速な情報伝達と根回しは、危機管理能力が高い証拠である。

 能力が高いゆえに、手持ちの部下たちの不甲斐なさに怒りを覚えるのだろう。

 

 雨天について触れられていない。

 水死体で見つかったなど報告はなかったのかしらん。

 少なくとも、広場から逃げたのだからその後の行方は気になるはず。


「士郎次が別段変わったということはないだろう。やはり、変わったのは冷衛の方らしい」とあるように、たしかに変わった。

 食い扶持のために口入れ屋から仕事をもらうだけで、他人と積極的に関わり合わなかったが、小竜の依頼を聞き、刀を折った黒衣の人物を思わせる事件を調べることで旧友とも再会、いままで振り返ることを避けていた過去と向き合うことで由比太に手伝いを頼み、士郎次とも話をし、落ちぶれた原因となった黒衣の人物とも対峙。逃げずに最後まで協力すると誓ったところだった。

 いままで狭まっていた視野が、広がった。

 だから、「士郎次は話してみると、閥族出身のくせに気さくなところがあって意外といい奴」だとわかり、「二年前の自分は愚かだったと冷衛は自省」することができるのだ。


 冷衛はようやく、「この二人ならよかろうと」二年前の出来事を詳細を語り、黒衣をみて取り乱した説明をしている。

 士郎次の「単なる私闘かと思っていたが、そういった背景があったのか。父上のことも絡んでいたとはな。すまん、俺が誤解していたようだ」とあることから、冷衛は詳細を、上層部以外には誰にも語っていないのかもしれない。

 あとで師匠の道場にうかがったとき「強敵と戦うことになりました。ほとんど勝ち目のない相手なのです」「あなたでも? ……そうか。あのときの相手なのでしょう」とあるので、師匠にだけは詳細を伝えているのだ。

 父同様に利用されたことを伝えているから、以前「二年前の件はあなたに責任はないと思うのよ、私は。ただ、私が心配しているのは、あなたの心だよ」「私は、あなたに剣を教えたけれど、何のために剣を使うかまでは教えられなかった。それが不憫でね」とあるので、これまでの冷衛は師匠しか信頼するものはいなかった。

 だが、心を開いた今の冷衛はかつての友たちに打ち明けるまでに成長できた。

 

 これまでの調べを士郎次は語っている。

「真人が調べていた事件の被害者は実子派の重要人物だ。表向きは病死とされているがな。そして俺が昨日調査していたのは、春日爾庵誠之助が名義の店、〈黒屋〉だった。俺は、真人を殺害した主犯は春日卿だと考えている」「真人が調べていた事件の被害者は鉄砲で殺害されていたようです。その弾は見つかっていなかったのですが、先日冷衛からこの弾を渡されました」「実子派の重要人物が殺された死因は鉄砲で撃たれたらしい。弾は身体を貫通して、まだ発見されていない。もし、これがその弾丸だとすれば」

 対立していた弟派の春日爾庵誠之助が犯人に違いないと睨み、黒屋を監視していたと小竜に告げている。

 犯人にたどり着くためには、回り道をしたような感じはしても、冷衛の凝り固まってしまった心を解きほぐしていく必要があったのだ。


 此度の一件で士郎次は「部隊を全滅させた失敗のせいで、半年間の謹慎処分を受けてしまった」とある。閑職や失職にならずに済んで良かった。半年は長い。その間に新たな人員を募集するのかもしれない。


 冷衛は「春日卿が犯人だったとすれば、黒衣との戦闘は避けられない。黒衣に勝つための準備が必要になる」と語っている。

 折れた剣を直すのかしらん。


 本作には数々の茶が登場する。

 赤藪茶、麦茶、ほうじ茶、紅茶、梅昆布茶、そして桑の葉茶。

「それは貴様の師匠の受け売りではなかったか」と士郎次が語っている。ということは、「酒と茶には金を惜しまんからな」という話を昔したことになる。

 二人はさほど仲が良くなかったはずなのに、どうしてそんな話をしたのだろう。士郎次はどうして覚えていたのか。

 想像すると、性格が悪かったのは冷衛だったのだろう。

 ひねくれてたのかもしれない。


 物語の後半、クライマックスの近いところでお茶の効能をする意味はなんだろう。もやもやする。

 師匠の受け売りとあるけれど、以前出されたのは粗茶であり、ほうじ茶だった。ちぐはぐな感じがする。

 冷衛が金を惜しまないのは事実だとすると、血糖値を下げ、糖尿病の予防、高血圧対策や咳の鎮静、滋養強壮に効果をもたら桑の葉茶を二十五歳で飲むのは健康オタクか、糖尿病の気があるのかもしれない。

 そもそも、冷衛が飲んでいる酒は焼酎であり、尾行していたとき飲んでいたのは蒸留酒である。

 焼酎は低糖質なアルコールであり、蒸留酒は醸造酒に熱を加えて気化させ、さらに冷却して再び液体に戻した酒なのでアルコール度数が高いが、蒸留して作られているため糖質はほぼカットされている。

 そして、好んで飲んでいるお茶は糖質の吸収抑制に働くとされる桑の葉茶である。

 太らないよう、糖質制限を非常に気にしているように思える。

 また、アルコールを摂取すると体内から水分が失われやすい。だから渇きを覚えてお酒を飲んだあとは水分を取りたくなる。そんなとき、利尿作用のあるカフェインを含んだ飲み物を取っては逆効果。故に、ノンカフェインである桑の葉茶を飲むのだろう。

 そこまでの知識、冷衛が持っていたのかしらん?

 誰かから教えられたに違いない。

 春日邸に伺った際、紅茶を出された場面がある。

 春日爾庵誠之助の屋敷で出されているのだ、安いはずがない。

 おそらく紅茶は高価な輸入物。何度もお邪魔してはご馳走になり、お茶の知識を得たに違いない。

 春日爾庵誠之助が教えてくれるとは思えないので、応対していた美夜から教えてもらったのだろう。

 だとすると、お茶が登場するシーンでは、冷衛は美夜を思い出していると推測する。

 お茶を飲む度に過去を思い出し、振り返り、対面する。冷衛の深層意識にあったものが徐々に表面意識へと昇っていく様を表しているのかもしれない。 

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