【恋愛(ラブロマンス)部門大賞・ComicWalker漫画賞】『広報部出身の悪役令嬢ですが、無表情な王子が「君を手放したくない」と言い出しました』の感想
広報部出身の悪役令嬢ですが、無表情な王子が「君を手放したくない」と言い出しました
作者 宮之みやこ
https://kakuyomu.jp/works/16816700427430222083
幼馴染ひなに何もかも取られる人生を送ってきた加奈は悪役令嬢コーデリア・アルモニアに転生し、自分と同じアイザック推しのひなが聖女エルリーナに転生した『ラキセンの花』のゲーム世界で、アイザックとの期間限定薔薇色ハッピーライフに励むも二人目の聖女となり、ひなと大聖女を巡って競い合う異世界転生物語。
三章まで読みました。
異世界転生ものの特徴の一つに、長いタイトルがある。
長い理由は、数多あるネット小説から選んで読んでもらうには、作品の中身がわかっていた方が選ばれやすい考えからきていると思われる。
なので本作も、タイトルから大雑把な内容が読み取れる。
作者は広報部経験があるのか、その知識をもちあわせていたのかもしれない。あるいは、王子との接点を考えたとき表に立つのではなく下支えする位置をみつけ、広報を思いついたのかもしれない。
三人称、ひなの幼馴染である加奈こと乙女ゲーム『ラキセンの花』に出てくる悪役令嬢コーデリア・アルモニア視点で書かれた文体。加奈の自分語りの実況中継が淡々と物事が進み、乙女ゲーム『ラキセンの花』のゲーム世界の設定説明にコーデリアとなった加奈の感情をそえられ、心情はカッコ内に書かれている。
テンポが良く、アプリゲームにハマっていた加奈ならではの感覚で感情が語られるところが読者視点に近いため、面白く感じられる。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公加奈が欲しいとおもったものは、幼馴染のひなが持っていってしまっていた。初恋や学芸会の主役、極め付けに、就職先の会長には「ひなちゃんを広報課の社内タレントにしたいから、彼女の仕事を代わりに手伝ってくれ」といわれ、彼女を引き立たせるためのマネージャー仕事をさせられていたが、転倒したひなに巻き込まれて死んでしまい、「あなたたちの設定を少し間違えてしまったみたいなの。お詫びに、あなたにはひとつだけ好きな条件で転生させてあげるわ」と女神に言われ、努力した分報われる世界を願うと、かつて猛烈にハマったアプリの乙女ゲーム『ラキセンの花』の悪役令嬢コーデリア・アルモニアに転生する。
ゲームをしていたときヒーローの一人、水魔法使いのアイザック王子に一目惚れしたこともあり、アイザックとの薔薇色ハッピーエンドを迎えたいと願うコーデリア。
ゲームストーリーは、主人公エルリーナがある日突然ラキセン王国の守護神・聖獣を従えられる聖女の力に目覚め、次代の王を決める権限をも有していた。そのため、ヒーローたちは王の地位を狙っては擦り寄って反発し、聖女を排除しようとする派閥もあり、その中でヒーローたちとの交流が生まれて愛に目覚め、誰かと結ばれる物語。
聖女がアイザック王子を選びませんようにと願うも、なぜかアイザック推しのひなが聖女に転生していた。コーデリアとアイザックの薔薇色ハッピーエンドは消えたが、来たるべき婚約破棄までの時間、アイザック王子を大事にし、コーデリアのことを忘れられなくなるぐらいたくさん思い出を作ろうと励んでいく。
だが、聖女エルリーナに転生したひなが「婚約破棄しないと聖獣を使って国を滅ぼす」と脅してくる。一途なアイザックは婚約破棄しないとひなに告げ、コーデリアは聖獣によって滅ぼされないためにも闇魔法を磨きはじめる。
国王の前で会談することとなり、ひなに加奈がコーデリアに転生したのを気づかれ、協力を求められる。断るコーデリアに怒り、国を破壊しようと聖獣を呼び出してしまう。コーデリアをかばってアイザックが怪我してしまい、治癒ができるのは聖女のみ。だがひなは魔法が使えなかった。
聖獣の口からコーデリアも聖女だと告げられ、国王からは「闇魔法の乙女は、高潔なる心を発動させた時、聖なる乙女へと転じる」と伝説を語りだす。結果、聖女の力である治癒でアイザックを治す。
財務大臣ラヴォリ伯が聖女ヒナの面倒を見、コーデリアは自身が聖女であることを広く国民に知ってもらうために広報活動の一つ、治療会を催すために告知新聞を配布を決め、ケントニス社とスフィーダ社に依頼する。一方、聖女ひなはラヴォリ伯爵家の嫡男と行動していた。
どちらが大聖女となるのか決めるまで二人の聖女を巡って様々な思惑が渦巻き、やがて国を二分するような混乱が起きていくのだった。
冒頭は、悪役令嬢が婚約破棄されるお決まりの展開からはじまる。
だが、「破棄……したくない……いやしなければ……」「すまないコーデリア……。私が不甲斐ないばかりに、君には辛い思いをさせてしまうことになる。本当は婚約破棄などしたくないのに……」「聖女殿に、婚約破棄をしないと国を滅ぼすと脅されたんだ」お決まりではない展開が起きて物語ははじまる。
異世界転生ものの作品は数多あり、現在は悪役令嬢ものが大量生産されている。そんな狭いジャンルの中で、他に類を見ない展開をひねり出すのは並大抵のことではない。
「どういうこと?」と読者に思わせるところで書き終わっている所が良い。
転生前の人間、加奈について描かれている。
幼馴染ひなの引き立て役のような、幸運を彼女に取られているような扱いを、生前はしていたことがわかる。
うっかり死んで女神に『ごめんなさいね、あなたたちの設定を少し間違えてしまったみたいなの。お詫びに、あなたにはひとつだけ好きな条件で転生させてあげるわ。何がいい?』といわれる。
この「あなたたちの設定を少し間違えてしまったみたいなの」は、前世、つまり広報部でひなのマネージャー役をしていたときの設定を指しているのか。それとも、転生先のゲーム世界での設定かしらん。
前者なら、これまでにも転生をくり返してきていることになる。だとすると、なぜ生前は前世の記憶を引き継いでいないのだろう。なぜゲーム世界に転生した際は、記憶が引き継げるのだろう。
「貴女が努力した分だけ、報われる世界に連れて行きましょう」とあるので、加奈は前世で努力していたので女神はそれに報い、記憶を引き継げて生きられる世界に転生したのだ。
なので、転生先のゲーム世界は、努力した分だけ報われるわけではないと考える。たとえ転生先で彼女が頑張って報われても、それは女神のおかげではないかもしれない。
なので、鳶に油揚げ的に聖女ひなに持っていかれる展開が起きると想像する。
描写は、現代に生きていた加奈の体験や知識との比較で書かれることが多い。「一人暮らししていた頃に使っていたような安物ではない本物のふかふか感」「海外の歴史ドラマにでも出てきそうな豪華な部屋。ロココ様式とでもいうのだろうか」
ばあやの描写は「四十代ぐらいのややふっくらとした女の人」「エプロンの裾で涙を拭っている」
自身、コーデリアは「陽光を受けてきらきらと輝く金髪に、深い海を思わせるネイビーブルーの瞳。ふさふさのまつ毛に彩られたアーモンド型の目はやや釣り上がっているものの大きくぱっちりとしており、形よく尖った鼻と愛らしい唇と合わせて完璧なバランスを保っている」とメインとモブとの描写の差が明らかにある。
ヒーローのアイザックも「ラピスブルーとも呼ばれるサラサラの青髪に、少年とは思えないほど理知的な光をたたえた瞳。目鼻立ちは上品でありながら甘く、その顔は絵画に出てくる天使のよう」
ひなであるエルリーナに関しては、「さらさらのミルクティーカラーの髪を揺らせ、平民らしきエプロンのついたワンピースを着た美しい少女」となっている。
主人公である加奈の親密度の差が、明らかに描写に反映されているのがわかる。
他のヒーローも「燃えるような赤髪を持つジャン」「彼はコーデリアに次ぐ才能の持ち主で、みんなのボス猿、もといガキ大将とも言うべき人物」あげく「うるさいですわよジャン=ジャガイモ」と野菜呼ばわりである。
地の文も加奈の内面がダダ漏れで書かれているので、読者は加奈視点により入り込みやすく、追体験しやすいのではと思える。おかげで、作品のわかりやすさや面白さを生んでいると思われる。
勉強部屋に押しかけ、「疲労回復効果のある甘味や飲み物を押し付けていた」とある。甘いものとあるだけでどんな甘味か言及されていない。
作品全体からして、そんなことを書く必要がないのだろう。大事なのは甘味ではなく、彼女がもたらす情報にあるからだ。
「――流行には敏感であれ。前世の新人時代に、徹底的に叩き込まれたことだった。流行に限らず社会のあらゆる変化を敏感に感知し、それが経営に与える影響をいち早く知らせるのも広報の仕事だったからだ」「今のコーデリアは、働くどころかまごうことなき幼女であるのだが、もはや体に染み込んだ職業病のようなもの」
ゲーム世界の展開を知っているのはもちろん、現実世界で培ってきた能力を異世界で発揮することで、不遇な状況を打開していく姿を描く。この辺りが、転生モノのメリットとして描かれる前世の記憶による才能が発揮される一つである。
本作では、前世で広報をしていたことが彼女の武器となり、アイザックとの親密度を上げていくのだ。
女神の告げた努力の定義が、随分とレベルの低いものとして扱われている感じがする。勉強すれば努力にカウントされ、能力に反応、簡単に身につけることができる具合だ。
きっと、毎日かるくジャンプするだけで脚力も勝り、あっという間に軽々と数十メートル上空に飛び跳ねることも可能だろう。
だから、聖獣フェンリルを殴り飛ばすことも容易にできたのだ。
今後、力の加減をコントロールしないと、ちょっと触るだけで物を壊しかねない。
フェンリルが、『ほう……? 今世の聖女はお主か。なかなか気合の入った呼び出し方をするが、たまにはこういうのもありだろう』といっている。つまり、このゲーム世界みたいな異世界は、これまでにも何度も転生してきた子がいて、その度に聖女が現れては実体験をしているのだ。
あるいは聖獣のフェンリルだけが多次元の同じ世界を行き来していて、エヴァンゲリオンに登場する渚カヲルのように、聖女を導く役割をしているのかもしれない。
ひなは、状況がわかっていないみたいなので、転生するときに女神に会っていないのかもしれない。なにもわからく記憶だけ引き継いで転生してきた彼女は、色々大変だったと思う。
ゲームストーリーにはなかった、二人の聖女という展開によって、ゲームプレイしている二人にも先が読めないような展開が待ち受けているのだろう。
二人目の聖女である自分を知ってもらおうと候補活動に乗りだすコーデリア。前世の広報部の知識を活用する場面がこれまで、幼少期のアイザックの部屋に伺ってはお菓子を持っていくついでに流行りのニュースを告げているくらいだったので気になっていた。
各新聞社を巡りながら依頼するとこが、省かれずに描かれているのも、元広報部にいたからこその見せ場だろう。
二人目の聖女発表の流れに乗るため、今ケントニスとスフィーダの二社に依頼。「最初の告知新聞は王都のみの配布とはいえ、部数を用意するだけでも結構大変なのだ」とある。第一回の治療会は王都のみで開催されるのだろう。
二人目の聖女が現れた御触れが発表されるも、「肝心の聖女を選ぶ方法についてはまだ触れられなかったものの、どちらか一方が大聖女に決まる点は明かされており、巷ではその話で持ちきり」とある。このお触れも、新聞社を通じて発表されたものかしらん。
決める方法が触れられていなかったのは、未だに決まっていないのか、決まっているけれど発表を控えているのか。
二人の聖女が決まり、後ろ盾のないひなに財務大臣のラヴォリ伯爵が後ろ盾に就く。結果、コーデリア派とひな派ができてしまい、貴族はどちらに就くかを算段し、やがて王位を奪い合う敵に変わる。
噂では、ひな派は牽制や腹の探り合いが行われている。
目の見えない水面下では、すでに激しい駆け引きが展開されているらしい。
「最近はラヴォリ伯爵家の嫡男といつも行動を共にしている」とある。ひなはひなで、なにかを計画しているのかもしれない。
ストレスがあまりなくサクサク読み進める点が、本作の良いところと思える。展開が早いのもいい。長編は次がどうなるのか、読者に期待をもたせながら楽しませなくてはならない。その点がよく書けている。
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