カクヨム賞 『ライムと真珠』の感想
ライムと真珠
作者 肥後妙子
https://kakuyomu.jp/works/16816927861558774427
ウタドリ先生が昼食にベビーリーフミックスとライム果汁入りのドレッシングで和えたサラダを挟んだサンドイッチを食べる理由は、昔新幹線内で聞いた真珠の話を聞いたから、というお話。
本作は企画物で、『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト カクヨム賞』を取った作品。審査に際し、最も重要視した点は「いかに料理がおいしそうに描かれているか」「料理を注文した後、その料理の登場する小説を読みながら、いつ自分のもとへ届くのかとワクワクしてしまう物語を選んだ」とあります。
ライムと真珠という、妙な組み合わせのタイトルが付いている。
読んでみなければわからない。
読み終えたら、きっとあなたはもサンドイッチを作るだろう。
ちなみに陸の真珠と呼ばれる苺やマスカットがあるという。
ミステリアスな作品。
主人公は二十六歳、還暦を過ぎた口ひげも髪も灰色の老紳士のウタドリ先生の秘書をしている一人称僕で書かれた文体。秘書兼家政婦みたいな雑用係をし、実況中継をした書き方。ウタドリ先生の話を聞き、その受け答えで構成されている。
女性神話の中心軌道で書かれている。
ウタドリ先生は短編ミステリーの名手である。
毎日同じものを作るように指示しているためか、秘書から「サンドイッチ随分お好きなんですねえ」と言われ、大学生の頃一人旅に新幹線を利用していた頃を思い出し、語りだす。
半分寝ながら車内で聞いた、夢のような女性たちの会話。
「ベビーリーフミックスの百万枚に一枚は真珠を作る能力がある」「陸の真珠を作るためのドレッシングは必ずライムの果汁を入れる事」
いまだ真珠は見つからず、女性たちが何者なのかもわからずじまい。だけど、彼女たちのお蔭で宝探しの冒険を毎日できるようになったのだ。
いまもウタドリ先生は真珠をもとめて、毎昼サンドイッチの冒険に出ている。
サンドイッチは大学生の頃からつくっていると語り、マザーグースの黒ツグミのパイから、新幹線で聞いた女性の話に移り、黒ツグミから日本ではムクドリの言い伝え、千羽に一羽は毒があるのは怖いから楽し話をという流れで「真珠の話」となっていく。
強引な流れなのだけれども、車内で昔聞いた女性の話なので、強引でも説得力がある。
なので陸の真珠、「ベビーリーフミックスの百万枚に一枚は真珠を作る能力があるのよ」というありえない話にさえ、妙な信憑性が生まれていく。
話は更に続き、料理によって真珠を発生させるとなり、
「陸の真珠を作るためのドレッシングは必ずライムの果汁を入れる事よ。それ以外は何がふさわしいのか確証が持てないのよ」「教えるわ。植物油、ライム果汁、食塩、刻んだ玉ねぎのピクルス、ピクルスの漬け汁。それにハムやスモークサーモンを加えてサラダサンドイッチにしていたわ」
秘書である主人公が、先生が毎日食べているサンドイッチを作っている理由が明らかになっていく。
だからといって、女性たちは何者なのかは謎のままだし、真珠も見つかっていない。夢みたいな話だからこそ、いまも真珠が見つからないかと、夢みたいな冒険を先生はしているのだ。
陸の真珠は存在しないだろう。
女性たちのが話していた、彼女の母親が見つけた真珠というのは、ベビーリーフミックスから発生したわけではないと思う。
おそらく、旦那さんがサンドイッチを作ったときに忍ばせておいて、サプライズで奥さんにプレゼントしたのだろう。純真な奥さんは、ベビーリーフミックスから発生したんだという旦那のことばを信じて、娘に語って聞かせていたのかもしれない。
真実はともかく、謎は謎のままのほうがきれいな場合もある。
おそらく、謎を謎のまま楽しみ冒険をし続けることが、短編の名手とも言われるウタドリ先生の作品を生み出す原動力になっているのだろう。
作品を作る私達も、謎を謎のまま楽しみ冒険し続ける心を忘れてはいけない、という教えが本作には込められているに違いない。
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