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『クルシェは殺すことにした』五話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 白鴉屋を経営するスカイエは、バカンスで最高峰の殺し屋ジアがいない間、雇っている経験の浅いクルシェにソナマナンをつけて、依頼された敵対する組織のターゲットを殺害させていた。

 雑用係のソウイチから、次の標的は幾つもの敵対勢力を潰して勢力拡大している老舗組織、月猟会の若頭・クオンだと告げられる。そんな相手と三人で遂行するのは難しいと躊躇するも、クルシェの養父フリードを殺害したのが月猟会と知り、依頼を引き受けるのだった。



・五話までの感想


 目を引くような、物騒なタイトルが付いています。おそらくクルシェという人が殺人をしていく物語なのでしょう。インパクトがあっていいと思います。

 小語様は心臓が丈夫そうです。長い一文は短くするか、途中に読点をつけてほしいです。全体的に設定説明が多い気がします。とはいえ、世界観の説明は必要です。

 読者は設定より、主人公に共感しながら物語の展開を楽しみたいのだと思います。


 三人称小説の神視点で書かれ、序章はソウイチ、一話以降はクルシェの視点で話が進んでいるように思います。

 作品に大切なのは、読者に主人公を共感してもらうことといわれます。主人公に共感をもってもらうためには、読者と近い環境や価値観を主人公に持たせたり、欠点や駄目な部分があったりすると、親しみを感じます。

 なので本作は、「俺は生き延びて、稼いで稼いで豪邸に暮らして、一生左団扇で暮らすんだ!」と願望を叫んでいるソウイチを主人公にして、彼からみたクルシェを描かれていると読みやすいとおもいました。

 なぜなら、序章と一話以降で、視点人物がソウイチからクルシェになっているように見受けられるからです。視点人物が変わると、誰になりきって物語を楽しんでよいやらわからず、読むのを辞めてしまいかねません。

 クルシェで書きたいなら、もっと早めに登場させるとわかりやすいです。悪をなしていても、基本善人そうで有能だし、終始一貫しているキャラなので、彼女は十分主人公だと思います。


 各話には内容がわかるネタバレ的なサブタイトルがつけられ、読み手に優しい作りをしています。


 序章の一行目、「細い月が夜空にかかり、皮肉気に笑みながら光を地上へと注いでいた」という一文にモヤッとしました。

 おそらく、「皮肉気味に笑むような細い月が、夜空に浮かんでいた」のでしょう。「皮肉気味に笑みながら」とあるので、新月に近い細い月が夜空に浮かび、月光はわずかだったと思われます。

 物語世界が地球を舞台にしているのか(その場合いつの時代なのか)、地球に似た別世界の話かわかりませんけれども、街灯の描写もないので「月光を遮る建造物の陰の中」では、真っ暗で相手の顔すら見えないと思われます。

 読者は書かれてあることしかわかりません。かすかな月明かりの中では、クルシェの「暗闇にも目立つ金色の長髪と、怜悧な茶瞳」はわからないのではと推測します。

 だけれども、登場人物たちはみえているので、この世界の細い月は満月と同じ程の月光を放って明るいのか、登場人物たちは夜目がきく夜行性か、もしくは夜でも昼間のように見える能力持ちか、暗視ゴーグルでもつけているのかもしれません。それらの描写もないので、暗い夜の中、銃撃戦をしながら会話を普通にしているのが気になりました。

 終わったあと、ソウイチは「零時二一分、完了確認しました」といっています。なのに、時刻を確認できるものを所持している描写もありません。なので、登場人物たちはアンドロイドかロボット、もしくは攻殻機動隊みたいに電脳化している人なのかもしれません。だから、夜の暗闇でも昼間のように行動ができたと邪推したくなります。


 一話でクルシェが釣りをしているのは、彼女が人間の真似事、あるいは、自身が人間であることの再確認のために日常を堪能しているのかもしれません。

「春の陽光を糸にして織り込んだような眩い金の長髪」と説明したあとで、「今は晩秋の淡い日差しに照らされ、その場にいた」と書かれてあります。気持ちが暗く沈んでいる表現でしょう。そのあとに「声にならないほどの息を薄く開いた口から押し出しつつ背伸びをした」と描写しています。釣れなかったから暗い気持ちになったわけではなく、空をみるために釣り糸をたれていることが説明されます。気持ちが沈んでいた理由は別にあるようです。

 本作は、説明と説明の合間に描写を挟むような書き方をされ、そこに何かしらの意図を感じます。


 水華王国主要都市の一つカナシアの説明をするなら、たとえばクルシェの相棒が新人で、カナシアを知らないから説明してあげる、みたいに書くこともできます。それをしないということは、これから主人公たちが巻き込まれる出来事を書くための場所の説明を入れておきたかったのでしょう。

 ならば、一話冒頭で都市カナシアを語って、さっさと白鴉屋で仕事の話を聞く流れにしてもよさそうなのに、一話は釣りからはじまっています。登場する釣り店の男は、物語に絡んでくる重要人物かもしれません。


 クルシェが注文するウイスキーの牛乳割りを作り、ソナマナンに彼女の好物であるクコ茶を出したソウイチ。彼は二十歳の学生で、「金銭に異常な執着があるため、給料の良いこの仕事を選んだ」と書かれています。

 この世界の学生が、何歳から何歳まで通うものかはわからないけれども、「三日に一度はソウイチの顔を見ているため果たして単位が取れるものか怪しい」と心配されるほど、勉学に励んでいるようにはクルシェには見えていなません。かといって、「学業と並行しながらもソウイチはこの仕事に関して骨身を惜しんでいない」とあります。

 雇われている彼女たちへ依頼説明や雑用全般、クルシェ達の監視も彼の仕事であり、酒場の従業員をしながら銃撃戦に巻き込まれることも理解して働いている彼は、はたして「稼いで稼いで豪邸に暮らして、一生左団扇で暮らす」ためだけに働いているのかしらん。彼には彼の、裏の事情があるかもしれません。

 学業にも仕事にも励んでいるようにはみえないとクルシェはいっていますが(学業のことはわからないけれども)、彼女たちへの仕事については彼なりに気を使ってこなしているように見受けられます。

 ということは、現在の彼の働きっぷりでは、クルシェが要求する基準に届いていないのでしょう。学生をやめるか卒業するかして、こちらの仕事一本に専念してくれたら認めるのかもしれません。


 クルシェを雇っているスカイエは、次の依頼について「今回の依頼は大変なの。かなりね。無理だと思ったら断ってもいいわよ」「ふふ、期待しているわ。でも、決して無理はしないでね」と言っているにも関わらず、ソウイチから次の標的は、幾つもの敵対勢力を潰してここ数カ月で勢力を拡大している老舗組織、月猟会の若頭・クオンだと告げられます。

 最強の殺し屋ジアがバカンスで不在中に、三人で(実際に殺害するのはクルシェとソナマナンの二人と思われる)遂行するのは難しく逡巡するも、クルシェの養父フリードを殺害したのが月猟会と告げられ、依頼を引き受けることになります。

 つまり、スカイエは「断ってもいいよ」と口では優しいことをいいながら、クルシェを断れない状況に追い込んでいるわけです。しかも、自分で告げず雑用係に任せているところも作為的で、実に食えない人物なのでしょう。受けた依頼を成功させるには、ジア不在の戦力では、クルシェの私怨を利用しなければ完遂できないと思ったのかもしれません。経営者としては、部下のやる気を出させるのも立派なお仕事です。

 うまくいったら、「クルシェの手で仇討ちをさせたかった」みたいなことをいって褒めるつもりかもしれません。

 クルシェが釣りをしながら気持ちが沈んでいたのは、養父が殺されて悲しんでいたのかもしれません。


 以下続く




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