デジタル魔術〈マギア〉殺人事件
山下東海
第一作 五月晴の下の魔術師
一章 デジタル魔術《マギア》学研都市
第1話 邂逅
二〇七三年、四月一日。
三角屋根のステーションから、若者たちが続々と出てくる。
白や黒の石畳が敷かれた街路に踏み出し、皆が一度足を止める。
「……ここが
一人の少女が感慨深げに口にする。ゆるふわのショートヘアを揺らしてキョロキョロと周囲に目を向ける。
「それで、ここからどうするんだっけ?」
「今日は入学式典と入寮の手続きだから……」
連れの少女がスマートフォン型デバイスを見つつ答える。小ぶりなポニーテールと大きめの青いリボンが
「まずはホールね。今調べてるから待って」
その二人連れの横に、一人の男子生徒が出てくる。
その中空にはホログラム画面が浮かび、『ようこそ
つまりどこに行くにも南に行くのが適当、と男子が歩き出した。
それに、隣のゆるふわ少女が気づく。
「あっ、あの人について行けば良いじゃん」
「ちょっと待ってよ。今調べてるのに」
相次いで二人の少女が足を前に出す。他の人もその背中を追い始める。やがて、ステーションから出て次の交差点を右折する列ができあがる。
――誰も、片隅のベンチに腰を下ろす少女に目を向けない。
ツインテールの髪を項垂れさせ、ゆっくりと呼吸を繰り返す。首から下がったしずく型のペンダントを右手で握りしめている。
と、そこに、声をかけられた。
「どうかされました?」
ツインテールの彼女が顔を上げると、黒髪を背中に流した少女がこちらを窺っている。
やや面長の顔立ちに、切れ長の瞳。同年代らしさと大人びた雰囲気を感じるものの、ちょっと印象薄めでもある。
「お水持ってくるとか、誰か呼んでくるとか……」
「あぁ、あはは、気にしないで」
彼女は背筋を伸ばして、笑みを作った。大きく膨らんだ胸元が揺れる。
「
「いつも?」
黒髪の少女が
「だってさ、考えてもみてよ。
自分が、正確には自分の乗った箱ごとだけど、一度0と1に分解されちゃって、それがネット回線通って移動してさ、その先でまた組み立てられて、今ここにいるんだよ。
冷静に考えたら気味が悪いじゃん。自分はブロックでできたおもちゃかよって話だよ」
「ま、まぁ、そうだけど……」
「もっとも、細胞とか分子とかいうレベルで言えば、私もブロックでできてるみたいだって理解はできるんだけどね。
まぁ、頭でわかってても体が受け付けないからさ。結局いつでもクラクラしちゃうの」
「あ、あぁ、魔術酔いしてしまうんですか」
「そうそれ! 魔術による光や電磁波で、頭痛がしたり目まいがしたりね。でも、あなたと話してたらすっきりしたよ、ありがとう」
ツインテールの彼女は、脚を振って立ち上がった。黒髪の少女と並んでみると、相手のほうが頭半分ほど背が高かった。
「そういえば自己紹介がまだだったね」
ペンダントから手を離し、胸元を指さす。
「名前は
「あぁ、あなたも?」と黒髪の少女。「私は、
「あっ、やっぱり同級生なんだ! そんなに年の頃も離れてなさそうとは思ってたんだ」
ツインテールの毛先が跳ね踊る。
「ちなみにタカナシって、もしかして小鳥が遊ぶって書く?」
青木桐華の問いかけに、睦美は多少の
桐華は数度瞬きをしてから、傍らのキャリバーッグに手を伸ばした。
「ねぇ、小鳥遊さんってこの街のこと詳しそうだね。実は、知り合いと待ち合わせしてるんだけど、道案内してくれないかな?」
「まぁ、それは良いですが……」と睦美はなおも歯切れが悪い。「どうして、詳しそうって思ったんですか?」
「へへ、私わかっちゃったの」
桐華は片えくぼを浮かべた。
「小鳥遊さん、この辺りの出身でしょう?」
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