『悪役令嬢』というのでしょう?

projectPOTETO

第1話

「ルイメール・オベール。

 お前との関係はこれまでだ!」

「はい?」


 ワルークネ王国にある魔術学院。

 そこのダンスホールで卒業パーティが開かれていた。

 その最中、この国の王太子であるオレワ・ワルークネは己が婚約者に指を突き付ける。


「……殿下、申し訳ありませんがいまなんと?」

「お前との関係を断つ。

 もっとわかりやすく言わないとだめか?婚約を解消すると言っている」


 周りの視線が集まる中、再度ルイメールに告げる。

 ルイメールはため息を吐きながら持っていたグラスを近くのウェイターに渡してオレワに向き直った。


「色々とお聞きしたいことがありますが、とりあえず理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?

 ……まさかとは言いますが、殿下の後ろに立っているご令嬢に惚れたなどとはいいませんでしょう?」

「なんだ、貴様にしては察しがいいじゃあないか。

 そう、このオレワ・ワルークネは真実の愛に目覚めたのだ!」


 オレワはそうして意気揚々と、まるで歌うように愛を語る。

 呆れ果てているルイメールはそれを聞き流しながらオレワの後ろに隠れている少女を見る。

 己の記憶が正しければ彼女は庶民の出だったはず。

 特殊な家柄でもなく、しかして多くの貴族の男性を惹かせる魅力を持つと小耳にはさんでいた。

 少女はオレワの自慢に目を輝かせ、満面の笑みを浮かべていた。


(あぁ可哀そうに)


 ルイメールはその少女に


「ということだ。

 もちろんこの後に父上にも許可をもらいに行く。

 まぁ聞かなくても答えはわかっているだろうがな?」


 オレワはルイメールの周りをぐるりと歩きながら言葉を続けた。

 まるで舞台役者の様に身振り手振りをしながら。


「私は知っているのだよルイメール」

「なにをでしょう」

「貴様の家にある数々の悪い話をさ」

「そうですか?それで?」

「ふぅむ、焦らないとは流石だ。

 その胆力だけは称賛に値する」


 だが。


「それが明るみにでても同じ顔ができるかな?」

「じゃあ同じ言葉を返しましょう」

「……なに?」


 ルイメールはオレワを押しのけ、隠れていた少女の肩に手を触れる。

 あまりにも自然な動作に少女は避けるという動作ができず、数秒間が空いてからビクリと跳ねて顔を青く染める。


「落ち着きなさい。

 何も危害は加えないわ」

「貴様っ!」


 オレワはルイメールを剥がそうとするが、その間に炎がゆらりと出現する。

 そしてそれが小さな人型に変化し、オレワを遮った。


「悪いことは言わないわ。

 あの人だけはお止めになって?」

「で、ですが殿下は私を」

「貴女にはどれだけいい殿方に見えてるのかわかりませんが、アレは真正のド畜生ですわ」

「えっ?」


 ルイメールは少女の手を取って、優しく引く。

 いつの間にか腰にも手を回し、音楽も無いのに自然なリズムで踊り始めた。


「趣味はギャンブル。勝手に金を使っては消費し、門限も無視して夜遊びばかり。

 更には金銀等の収集癖もありますし、女性の使用人に対するセクハラなど日常茶飯事。

 またナンパをしては己の身分をチラつかせて無理やりお誘いする始末。

 あら?まだ納得できません?

 じゃあもう一ついいますと、貴女のような女性はこれで28人目ですわ」

「えっ」

「もしアレと結婚なんてした日には貴女は何もかも奪われ、最終的には身体を売らされますわ。

 『王族の女』というブランドがついて」

「そ、そんな」

「まぁ優秀な才を見定める目自体は本物ですので、貴女も何かしら優れたものをお持ちでしょう。

 知り合いに伝手がありますのでご卒業はそちらを頼るとよろしいでしょう」

「貴様っ!!何を勝手に!

 ヤサシーン!その女の言葉を信じるな!」


 オレワがルイメール達の間に割り込み、憤怒の表情を向ける。


「どうされましたか?」

「根も葉もないことを吹き込むのはやめろっ!

 私を陥れるつもりか!!」

「いいえ……。

 いいえ違いますわ殿下……」


 ルイメールは人型の炎を手にし、それを扇に変化させる。

 そこから覗かせる笑みはまるで悪魔のようだった。


「貴方は既に堕ちているのです。

 ですから私が婚約者なのですよ」

「なっ」

「そうですね。この場の者には緘口令を敷きましょう。

 大丈夫。もし漏れても握りつぶしますので」


 ルイメールが一歩進めば、オレワは一歩下がる。

 しかしなぜか距離は詰められる。

 先程までの上機嫌な心持ちは消え去り、恐怖心が全身に蝕む。


「なっ、何なのだ貴様!」

「あら既にご存じでは?

 でもまぁ……俗世に言うのであれば」


 距離を詰めたルイメールはオレワを傾かせ、その背が床に着く前にその体を支える。

 そして上から顔を覗き込み、告げた。


「私のような女は『悪役令嬢』というそうですよ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『悪役令嬢』というのでしょう? projectPOTETO @zygaimo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ