幕間
第14話 戦いの記 チャプター1 動画作成開始
突如として日本に発生した謎の超常現象“神隠し”。
人を、町を、一瞬にして消滅させるその怪異に巻き込まれたものは、奇妙な空と荒廃した自然。そして恐怖の霧と異形の怪物が巣食う魔境、《ミストピア》へと転移していた。
怪物は《マグニ》と呼ばれ、霧の中から現れては人々を襲う。
そんなマグニに対抗し、人々を守り、ミストピアからの脱出を目的とする組織“TAROT”が結成される。
TAROT内の戦闘部隊。“アルカナ”と呼ばれる神秘の力をその身に宿した少女たちで構成された“アルカナガールエスケーパーズ”。通称“AGE”と、AGEのサポート及び人々の護衛を兼ねた“AGE‐ASSIST”によって、人々の安全と平穏はある程度確保され、最初の神隠しから十年近くが経過していた。
カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響く。
ここメジャーベース内の指令室で、里中頼子ただ一人がデバイスに向かって黙々と作業に勤しんでいた。
デスクに置かれたコップには、すっかり冷めきったコーヒーがまだ三分の一ほど残っている。かなりの時間をこの作業に費やしていた。
「里中さん、お疲れ様です」
この空間に入ってきたのは本部アナライザーの代神子原壮介だった。手にはクッキーの写真が印刷された角缶を抱えている。
「あら、代神子原君」
「一息つきませんか?」
代神子原が角缶を見せつけると、里中は思い出したかのようにメガネを外し、目元を抑える。
目を瞑りながら一言「そうね」と返事をすると、メガネをかけ直し、今度は両腕を前に伸ばしてそのまま上へと上げ、上半身を逸らす。椅子の背もたれに背中を預け、目を開ければ天井が視界に映る。
かなりの時間作業に没頭していたせいで、身体中がガッチガチに凝り固まってしまっていた。首や肩からボキボキと悲鳴が聞こえる。
デスクのコーヒーに手を伸ばすが、口を付けようとするとすっかり冷たくなっていることに気付く。
「入れ直しましょうか?」
代神子原もそれに気づいたようで、自分のを入れるついでに提案をする。
「……お願い」
一応残りを飲み干してからそう返事をした。
「それで代神子原君。莉央ちゃんの容態はどう?」
「かなりひどい状態です。神経や脳の一部が焼き切れているみたいで、体温や血圧も異様な数値に……ですが、アルカナの再生能力が正常に機能し始めているので、命に別状は無いとのことです。ただ後遺症は残るかもしれないと」
「そう……あの子今回かなり無茶したものね」
入れ直して湯気が立っているコーヒーに口を付ける。その表情は無事に安堵したものと、命に係わるほどの無茶をした莉央に対する不満のもの、そうなっても仕方ないけど……といった感情が混ざり合った複雑な感情を露わにしていた。
「ここまでひどいバックファイアを受けても死なずに済んだのは幸いですよ」
「外部からアルカナ粒子を安定させて保ってくれていた綾芽ちゃんや、洗練された救護班、それに所長たちが日々改良を重ねてきたAGEドライバー等のシステムのおかげね」
二人は時々クッキーをつまみながらしみじみと語る。
「そういえば里中さんは何してたんですか?」
「所長に頼まれて今一度TAROTやAGEについての説明資料を作成していたのよ。
エルマグニを倒したことで、また今後の方針に色々と影響が出てくるだろうから、今一度TAROTの職員や住民区に住む方々に説明し直す必要がね。
メジャーベース内はかなりごたついていたし、誰か一人ここに残ってないといけないから、気晴らしも兼ねて先に少し手を付けておこうと思って」
「でもそういうのは広報部の仕事なんじゃ?」
「AGEやマグニに関しては現場の声を取り入れたいらしくて。そこの部分だけ
「そうですか。それで、進んでいます?」
頼子は「う~ん」と唸って腕を組む。難しい表情で押し黙るその様子は、進捗が芳しく無いと言っているようなものだった。
「企業向けのお堅い文章では伝わり辛いと思うのよね。相手には子どもやご老人もいて、言葉選びにも色々と気を遣うとなると……どうにもね。専門用語も長い説明も避けないと」
「大人から子どもまでわかりやすくですか。文章だけでは限界がありますね。だったら動画で説明してみるのはどうでしょう?」
「動画で?」
「どのみち文章で説明しようとすると、かなりの分量になりますし、それでは読んでもらえない人も出てくるはずです。
でも、動画ならなんとなくでも把握できると思うんです。画や音の力って強烈な説得力がありますから」
「私もそれは考えはしたんだけど……そうね。人手が足りないとかアイディアが思い浮かばないとか言っている場合じゃないわね。
大事なのはより正確に、より分かりやすく、より大勢に伝えること。動画で伝える方向で行きましょう。
代神子原君、悪いけど手伝ってもらえるかしら?」
「もちろん、元よりそのつもりです」
こうして、資料用の動画作成が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます