夢見草が芽吹く頃に

デミ

第1話


 花が散った。

 今日も。

 僕が育てる花達はすべて、飴色になり、枯れ果ててしまう。


 花は枯れるものかもしれない。

でも僕はそれが分かっていても、罪…責任を感じてしまう。もう少し上手く育ててあげられたのではないか、もう少し長く生かしてあげられたのではないか。僕の技量次第で、花の命が決められてしまうとしたら。


 僕は幾つの花を殺めてきたのだろう。


永遠に生きる花があればいいのに。

 もし、花が本当は枯れないものだとして、人間たちが積み重ねる罪によって枯れてしまうものだったら僕は悔やんでも悔やみきれない。


 僕らの罪が、花を永遠のものにすることにできない要因で、美しさに制限をつけてしまって。


 美しいものは美しくいるだけでいいのに、ただそれだけでいいのに、其れすらもできず、訪れるべき死を待ち受けているかのように美しいものは誰にも助けを求めず、道の片隅で静かに佇んでいる。


 何故、どうして?


 どうして助けを求めないのか。どうして、花はそんなにも儚げに咲いているのか。花は語らない。問いかけに答えない。


 僕には分からない。


 子供らは花びらを引きちぎり、花占いをしている。

栞にする。捨てる。花輪を作る。捨てる。ドライフラワーにする。壊れる。標本にする。永遠になる。


 でも、それは人工的に作られた永遠だ。歪で決して永遠とは言える代物ではない。

絶滅するものは、生きるものは、死が存在しえるからこそ命の尊さというものがわかるはずなのに、そんな自分勝手な想いで命をそんなに軽々しく扱っていいものでは無い。消え去りし命を勝手な理由で永遠のものにしようだなんて。


 それはあまりに自分勝手すぎる。エゴにまみれ、欲望に満ち、罪の認識すら出来ないで、花に対する冒涜を平気で行うなんて、酷い。あまりにも酷すぎる。惨い。残酷だ。何故? どうしてそんなことをするのか?


 わからない。何があればそんなことができるようになるのか。


 僕には解らない。


 その花は誰に気づかれることもなく、健気に生きようとしていた。

けれど僕には——何も出来なかった。


 日が経つごとに枯れていく様を、ただただ眺めていることしかできなかった。

 蝉の抜け殻のような色に変わっていく花びらはやがて潤いを失くし、からからと乾いた音を立てて僕の手の中で粉々になっていった。


 償いを何もできずにただ呆然と、時が過ぎ去っていくことに気づいていながら僕は助けることも出来なかった。

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