学校一のお嬢様のヤングケアラー仲間になったら、めちゃくちゃデレられた
白銀アクア
第1章 お嬢様の秘密
第1話 ヤングケアラー
ヤングケアラー。
その言葉を最初に聞いたときには、中世ヨーロッパ風ファンタジーRPGのジョブだと思っていたのだが。
厚労省によると、『本来大人が担うと想定されているような家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこと』だそうだ。
「お兄ちゃん、いつも迎えに来てくれて、ありがとう~」
「
僕、
事故で歩けなくなった妹を世話している僕も、ヤングケアラーのひとり。
ケアラーなのに回復魔法が使えなくて、悲しい。
ところで、妹は同じ学園の中等部にいる。なので、送り迎えも僕がしていた。
「お兄ちゃん、友だちいないもんね~」
「陰キャで悪かったな……ってか、友だちならいるぞ」
「友だちって、
「ひとりでも友だちがいれば、ボッチじゃない」
「お兄ちゃん、悲しすぎるよ~」
僕は車椅子を押して、ゆっくり歩き始める。
正門前。そよ風が新緑を揺さぶり、葉音を鳴らす。
思わず、木の方を向く。
そのとき、麗しいモノが目に入った。
さらさらの銀髪がなびき、5月の陽光を浴びている。
(
朝比奈さんとは同じクラスで、隣の席にいる女の子。
学校一お嬢様と呼ばれていて、姿勢正しく歩く姿も実に優雅だ。
その朝比奈さんは友だち2人と一緒に、正門を出ようとしている。
「では、おふたりともごきげんよう」
うちの学校は公立の中高一貫校。私立でもないのに、お嬢様学校の挨拶が聞こえた。
「
「
朝比奈さんの友だちは普通――じゃなかった。
安心しつつ、朝比奈さんの胸を見るのも忘れないのが男子高校生の
(たしかに、大きい)
教室でもたまに横を向くときに視線に困る。
朝比奈さん、正門を出たところで、友だちと別れる。
その後も、挨拶をされた生徒たちに会釈し、愛嬌を振りまいている。
洗練された仕草は、貴族か皇族かって感じ。
「聖麗奈先輩、マジもんのお嬢様だよね~」
「中等部でも有名なのか?」
「メルたちは1学年しかちがわないからともかく、新入生の間でも聖麗奈先輩は学校一のお嬢様として有名だよ~」
隣の席の人がすごすぎて、僕みたいな陰キャが近くにいていいんだろうか。
「お嬢様なのに、運転手が送り迎えしてないのもあって、印象が良いんだよね~」
「我が家は貧乏なのに、僕が運転手をしてるのは、なぜ?」
「お母さん、女手ひとつで稼いでくれてるんだよ~」
怒られてしまった。
「天気もいいし、公園でも散歩してから帰るか?」
「お兄ちゃん、話をそらした⁉」
「言わないって約束だろ?」
「……お兄ちゃんが頭ポンポンしてくれたら、話をやめるね~」
「芽留は甘えん坊なんだから」
妹の金髪に手を置く。撫でると、芽留はくすぐったそうにする。
金曜日午後の街並みを見ながら、公園へ移動した。
僕たちが良く行く公園は、1周が約1キロ。
ちょうどボタンが見頃だった。花を眺めながら、まったり歩く。
平日とはいえ、人がパラパラいる。
しばらく散歩していたら、陽が傾き出す。
そろそろ帰って、夕飯の準備でもするか。
妹に切り出そうとするが。
「あれ、お兄ちゃん?」
「ん、どうした?」
「あの、おばあさん、大丈夫かな?」
芽留が指を指した先におばあさんがいた。杖をついて、キョロキョロしながら歩いている。まるで、道に迷ったかのよう。
「徘徊かもな」
「放っておけないよね~」
「ああ。でも、僕たちにできるのは交番に連れて行くぐらいだぞ」
「うん、とりあえず、メルが声をかけてみるね~」
「頼んだ」
芽留は積極的に他人に話しかけられるタイプで、友だちは多い。見た目も美少女なので、かなりモテているはず。
(男どもよ、妹がほしいなら、オレを倒せ!)
冗談はさておき。対外的なことは妹に任せるにかぎる。
妹を連れて、おばあさんのところへ。
「ねえねえ、おばあちゃん、大丈夫~?」
さすが、我が妹。まったく、ためらわないのがすごい。
「ん? あんたはエロイーズかい? ずいぶん、大きくなったねえ」
おばあさん、芽留をエロイーズと呼んだ。
(うちの芽留はエロそうな名前じゃないし?)
突っ込みたいのを我慢する。というか、エロイーズさん、すいません。
(認知症かもな)
たぶん、芽留を知り合いだと思ったのだろう。
病気の老人と、事故で下半身不随になった妹。
単純に比べられはしないけれど、脳や体が不自由で介護が必要という共通点がある。
笑うのは最低最悪だとしても、不用意に茶化すのもしたくない。
「おばあちゃん、道に迷ったのかな~?」
芽留がにこやかに話しかけている。
「わたしゃ正常だよ。道の方が道に迷ってるのさ」
意味がわからない。
バカにするつもりはなくても、コミュニケーションが成立しないんだから、困惑は
する。
コミュ力高い、妹に任せるのが一番。とにかく、交番へ連れて行こう。
妹に目で合図を送ったときだ。
「おばあさま、どこですか?」
どこかで聞いたことのある声がした。
声のした方を向く。
ジャージ姿の美少女が走って、大声で人を探している。
50メートルぐらい離れていても、目立った。
銀髪と、揺れる双丘が。
「えっ?」
間の抜けた声が漏れてしまった。
僕たちに近づいてくる少女が。
「朝比奈さん」
学校一のお嬢様だったのだから。
「良かったぁ、おばあさま」
朝比奈さんは安堵したのか、ため息を吐く。
続けて、僕たちに向かって頭を下げる。
「ありがとうございます」
45度の深いお辞儀。
ところが。
「なっ⁉」
僕の顔を見ると、目を見開く。
「あ、茜さん?」
「そうです。茜です。女子の名前みたいですけど、茜という名字です」
お嬢様の笑顔が引きつっていた。
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