第15話


俺の名は今はタダノ•セイエンである。本名は無い。

王室の影として生まれ、王室の為に働く為に生きている。だから、名前を与えられる前は影としか呼ばれない。


影の一族のスキルは特殊である。特殊なスキルを持つ者を集めて影の一族としたとも言えるか。

今回の使命は『マンナンカ魔導学園に新入生として潜入して魔族の動きを探ること』である。


いつものように秘密の隠れ家に指令書と新しい名前に必要な備品一式が届いていた。隠密行動が常である影なのに俺にさとられず届くのは俺のプライドを痛く刺激する。まぁ俺の上司とも思われる者の方が俺より優れたスキルを持つのだろうと半場諦めている。

指定の日に入学し、指定のクラスに行く。目立たぬ様にギリギリに入り、目立たぬ場所を確保する。


教師であるアマリ•サエナイも俺のことはただの生徒だと思っている筈だ。俺の事は学園長と一部の理事長しか知らない筈である。王家の影に依頼が来るということは学園の誰からか依頼が有った筈だからだ。

貴族だらけのSクラスの生徒の中に一般市民の学生はちょっと頂けない、目立つだろうに。この設定を考えた奴は大丈夫かと思う。


クラスの中の者に魔族は居ないと思うが、特筆すべき貴族がいる。

ソンナンカ・アリエナイ

強化系 魔力数値15800


レイチェル・ハクコウ

全系統 魔力数値5000


リンク·レンダーシア

操作系 魔力数値5000


魔力数値が5000は一般魔族レベルである。それが10000を越えるとなるとA級魔族、爵位を持つレベルである。

まだ入学したばかりで魔法もまだこれから覚えるのだから魔力数値も更に伸びると思われる。問題は魔力数値が高いものは影の一族が使う隠密の行動を察せられる可能性があるということだ。


アマリ•サエナイ

特質系 魔力数値26000


恐ろしく高いが教師が魔族なのはあり得ない。雇用する時点で徹底的な調査がなされるからだ。


ダダノ•セイエン

全系統 魔力数値2100


系統は誤魔化せないが数値は幾らでも変えようがある。クラスの中で浮き上がらない様に調整はしてある。

構内調査で遅れて行った魔法実技では初めて使うふりをするのは酷く面倒だったからあっさりと終わらせたのだ。


ソンナンカとレイチェルに教えて貰えたのは役得と言えるのかどうか。


教室で講義を聞くのは馬鹿らしいので魔法でダミーを立てて構内を調査することに時間を費やす。魔力測定に立ち合って魔力数値でチェックするのもありだが、誤魔化される場合もあるので普段の魔力の状態を隠れてチェックする。

最初から魔族でなくて魔族から眷属化のスキルを使われると急に変わる事もあるので噂話のような事もチェックしないといけない。

大部分は面白みのない噂話でしかないが変化が起きている生徒をチェックし続けて行く。


そんな中、ある女性生徒の行動が変わったという噂話を聞きつけた。

上級生のフォ•アキサメという女だ。


1、2ヶ月ほど前までは普通だったのに急に暗くなって話をしなくなったらしい。友人はある上級生に惚れて告白をしたと聞いていた。それが思わしくなかったからではないかと言っていたのだがその変化が余りにも異常と噂になったらしい。

暗い影をまとい、奇声をあげ、話をすると直ぐに感情を高ぶらせる。暴力を受けたものはいないがそれまで友人だった者たちから離れてしまったらしい。

それだけなら振られた女性の奇行で終わったらだろうがその相手の上級生がパプテマス・クロッコ辺境伯の息子ムロウト•クロッコであった。


クロッコ辺境伯は魔族領に近接する領を治める伯爵家である。近年魔族の跳梁が激しく被害も拡大していることから王家からの援助が伸びている伯爵家の筈である。逆に、辺境伯に魔族の手が伸びている可能性も高い。


先ずはフォ•アキサメの状態を確認だろうと隠れて観察をしていた所、思わぬ事件が起きた。


フォ•アキサメの同級生3人が校舎裏で詰め寄ったのだ。詰め寄った女性に危険が及ぶかも知れないといつでも飛び出せる様に隠れて様子を伺っているとレイチェル•ハクコウがそれを見咎めて口論となった。更にはソンナンカ•アリエナイまで現れて4人の注意が逸れた時にフォ•アキサメが人では出来ない行為に出た。校舎の壁を蹴り上げて屋上まで飛び上がったのだ。

通常の人間では認識できない行動であった。唯一ソンナンカ•アリエナイが不審に思ったようだが俺は確信した。

フォ•アキサメは魔族に眷属化されている。


王都にあるアキサメ黒爵邸も確認したがもぬけの殻であった。影の一族の上司に報告を上げたからきっとクロッコ辺境伯領にも調査の手が上がるだろう。


マンナンカ魔導学園に通う息子ムロウト•クロッコの周辺に変化は無い。色白でハンサムな最上級生の男は4人の女性を侍らせている。フォ•アキサメの様子から侍らせている4人も調査が必要だろう。

数日後に届いた上司からの指示も調査の続行であった。4人の身辺調査をしていると野外演習で驚くべき事件の発生を聞いたのだ。


竜の強襲が発生し、何者かにレイチェル•ハクコウが襲われそうになり、更にはフォ•アキサメが闇の祭壇を築き、それをソンナンカ•アリエナイとレイチェル•ハクコウが見つけたと言う。


王宮では関係者の身柄保護という名目での隔離の話が上がったようだがアリエナイ黄爵の強硬な反対に会い、流れたらしい。父親なら娘か心配で無いのかと思う。



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