賢者の孫孫
@kyutosu
第1話
『マンナンカ魔導学園』
あたしには賢者の血が流れている··らしい。あの伝説の賢者クワイラズの子孫なのだ。
広大な荒野を魔法によって作物の実る畑にし、様々な新しい野菜を生み出し、魔法薬の原料となる花々を開発し、このマナンカの国の基礎を打ち建てた賢者である。
幼児であれば必ず絵本や寝物語で語られる賢者は邪悪な龍王を倒す勇者ヨシヒカと同じ位人気があった。勿論、あたしもそんなお話を聞いて育ち、勇者の様な戦いにも憧れたが、女のコだから同性の賢者クワイラズにもっと憧れたのだ。
あたしの名前はソンナンカ、アリエナイ黄爵の次女で12歳。この春からマナンカ魔導学園に入学する。貴族だから家庭教師で基礎知識は学ぶ事が出来るが学園に入り、魔導の洗礼を受けなければ魔導を行う事は出来ない。
そう言う意味でも魔導学園が無かった頃の賢者クワイラズは独力で魔導を開発、発展させたのだから凄い人だったのだ。
馬車でマナンカ魔導学園の校門に乗り付け、御者の手を借りて優雅に降り立つ。そしてあたしの横にももう一人が降りてくる。5分違いの妹マタモヤだ。
私はツインテールの金髪だがマタモヤは縦ロールの金髪だ。
顔立ちは同じ、詰まり双子である。二人共身長は155センチ、体重はむにゃむにゃ、内緒だ。
そしてあたしの頭の後ろには光球が1つ浮いている。この光球はあたしの秘密だ。王国魔導師長でも神聖教会教皇でも何だか分からなかった。因みにマタモヤには無い。
正門の幅は10メートル以上はあるだろうか、両脇にはフル装備の魔導騎士がそれぞれ並び門を護っている。不審者などが入り込まない様に眼を光らせているがこれは殆ど飾りだ。
門には目に見え無い障壁が施され、許可証を持たない者は中に入れ無い様に成っている。勿論、あたしもマタモヤも学園証を持っているので問題なく通り抜け、中に入って行った。
その時、あたし達の横を誰かが走り抜けようとして門の障壁にぶつかり凄い音を立てて跳ね返された。
「きゃあ!ぶへっ!」
とても下品な叫び声に思わず二人して振り返る。
そこにはマナンカ魔導学園の制服を着た栗毛おさげの女の子が股を広げてひっくり返っていた。パンツの色は白だ。校門を入ろうとしていた他の者たちもざわざわ遠巻きに見ている。
「下品ね」
とマタモヤが言い。
「何かしら」
とあたしが言う。
「アイタタタ〜」
と頭を撫でながら栗毛おさげの女の子が体に着いた埃を払いながら立ち上がった。
頭を打っただけらしい。凄く頑健だ。
するとその後ろに見た事のある銀髪のハンサムが近づき声を掛けた。丁度、馬車から降りたところの様だ。
「君、見たところ新入生のようだけど大丈夫かい?」
マナンカ魔導学園の制服は着けているリボンの色で学年が分かるようになっていた。
あたし達新入生は赤色をしていて、銀髪のハンサムは白色のネクタイだ。詰まり、去年の新入生である。
栗毛おさげの女の子は銀髪のハンサムを見てぽーっとなっている。
騙されてはいけない、その男は変態だ。
私はマタモヤに先に行くように言うと栗毛おさげの女の子を助けに近づいた。
「ヤリスギ王子、朝からナンパですか?」
あたしの声に反応した銀髪のハンサムはにっこり微笑むと
「おはよう、マイスイートハニー♡」
といけしゃあしゃあ言う。
確かにヤリスギ王子はあたしの許嫁だがあたしははっきりと親にも本人にも断っている。こいつの本性をあたしは知っている、幼馴染みだから。
ヤリスギ王子の視線は栗毛おさげの女の子の顔でなく胸に向っている。詰まり、こいつは胸に向かって大丈夫かいなどと声を掛けたのだ。
「おはよう御座います、ヤリスギ王子。その娘は私が連れて参りますのでどうぞお先にお入り下さい。」
とカーテシーをかましながら怒りを抑えた笑顔を向けた。
あたしの感情を読み取ったヤリスギ王子は微笑んだまま頷いてあたしの横を過ぎて中に入って行った。
見送るとマタモヤは途中で待っていたのかヤリスギ王子と声を交わして一緒に中に入って行く。
あたしは栗毛おさげの女の子に声を掛ける。
「ヤリスギ王子には気を付けて。」
そう言うとヤリスギ王子を目で追っていた栗毛おさげの女の子は
「ヤリスギ王子様と仰るのですね♡」
と目をハートにしていた。
仕方ない、大抵の年頃の娘はこうなるのだ。
「貴方のお名前はなんて仰るの?私はソンナンカ·アリエナイよ。」
あたしの名前に驚いたのか我に返った栗毛おさげの女の子はカーテシーをして頭を下げた。
「失礼しました、ソンナンカ様。私はレイチェル·ハクコウと申します。ハクコウ黒爵の娘です。」
この国では身分の高い者に対しては自分の身分を公言する風習がある。アリエナイの名前ですぐに黄爵であると気づいたのだろう。
「あら、まぁまぁ。あの有名なハクコウ黒爵の····」
ハクコウ黒爵は数年前にドラゴンを斃し、騎士爵である黒の爵位を賜った英雄だ。ただ、それ以上詳しくは知らない。
「知り合いに成れて嬉しいわ、レイチェル様。」
「いえ、レイとお呼びくださいソンナンカ様。」
「あら、では私の事はソンナと呼んで下さいな。」
お互いを愛称で呼び合う事を認めあってからレイが何故校門の障壁に跳ね返されたのか聞くと鞄をゴソゴソして、魔導学園証を忘れた事を顔を青くして白状した。
あたしは門に立つフル装備の魔導騎士に説明して門の内側にある詰所で仮証を預り、魔力を込める。
門の外で待っていたレイに仮証を渡し、一緒に門を通った。
今度はレイは障壁の弾かれず通る事が出来た。
礼を言うレイと共にあたしは天気の事や入学式の事など話しながら講堂を目指した。
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