第2話 それはチャレンジャー

 今日もまた成果を奪われる。


「それでは回収された資源を確認します」


 この世界には神から与えられた9つの塔がある。

 内装は変わらないが100階層あり、生活に必要とされる資源が採れる。また、高い階層に行くと珍しい資源を入手出来る。

 そして、100階層の試練を抜けると神と謁見する事ができ、何でも願いを叶えて貰えるという伝説も存在している。

 そのため、塔に挑戦する者は『神の試練に挑みし者チャレンジャー』と呼ばれている。

 しかし、チャレンジャーの中にも歴然とした差が存在している。

 王侯貴族であるかどうかで区別されてしまうのだ。


「確認終わりました。それでは税として資源の半分と神聖物を徴収します」


 チャレンジャー管理局の受付に言い渡される。

 塔は神から神聖アン帝国に管理を任されているので、税は王族が定めたものに従わなくてはならない。

 そのため、平民は獲得した資源の半分と、稀に見つけることができる不思議な効果を持った道具のを税として納めなくてはならない。


「残りの資源はどうされますか?」

「現金で」

「お疲れ様でした」


 いつもの無機質な声に見送られ、チャレンジャー管理局から帰宅する。


 管理局から出ると、整備のされていない道に出る。

 どこの街も塔の周囲を囲む形で発展するのだが、塔の入り口は4箇所あり、その1つを貴族街に、残り3つを平民街に分けている。

 貴族街は平民から徴収した神聖物により綺麗な街並に整われているが、平民街はチャレンジャー管理局を除いて全て住民の手作業で公共工事などが行われており、実質ほとんど整備されていないのが現実だ。


「おう!リオ!今帰りか?」


酒場の前を通ると聞き覚えのある酔っ払い声が聞こえてきた。


「あぁそうだよ。そっちは結構飲んでるな」

「また気まぐれな暇人に絡まれてな...全くお貴族様は鳥籠から出てくるんじゃねぇっての」


酔っ払いのおっさんは渋い顔をしながら酒を一気飲みした。


「また現れたのか?」

「あぁそうさ!お前らは神の加護が無いだの言って管理局で騒ぎ起こしてムカつく顔で帰っていきやがった」


この世界の王侯貴族は神の加護が与えられている。そのため、神の加護を持たない平民は家畜同然に見られていた。

また、神の加護と神聖物を持てない事で反抗する力さえ手に入れられない状況になっている。


「アントンは今日は何階層に行ってきたんだ?」


アントンは見る度に酔っ払ってる印象があるが、実力的には平民の中では上の下程度の実力者だ。


「今日は31階層で牛を狩ってきたぜ!焼肉だ!」


塔の資源は多岐にわたる。牛などの生物、鉄などの鉱物、また、海もあるので塩などの調味料も確保できる。まさに階層ごとに別の世界が広がっているのだ。また、塔の中の生物には紫色の玉があり、紫玉は小さな種火かコップ1杯程度の水に変換できるため、日常生活に重宝されている。サイズによっては危険視され、税として没収されることもある。

このため、食べる事だけ考えたら生きていけるので餓死者だけは少ない。


「それで意気揚々と焼肉の事考えて帰ってきたら、嫌味言われたんで飲んでるのさ」

「飲んでるのはいつも通りだと思うんだけど」


リオは苦笑いしながら首を横に振った。すると、アントンは苦い顔をして言った。


「奴らは61階層に行ってきたんだとさ」

「なっ!60階層を突破したのか!?」


リオは驚愕した。ここ10年ほどは60階層で足踏みをしていたはずなのだ。

アントンは益々苦い顔をした。


「奴らそれをわざわざ自慢しに来たのさ。『やはり貴様らのような平民とは違う!』って」


リオは驚愕に包まれながら周囲を見渡した。


「確かにその話題一色みたいだな」


周囲では誰もがその話をしていた。つまらなそうな顔をしながら。

そこで、アントンは小さな声でリオへ問いかけた。


「リオ、お前さんまだあの夢は諦めてないのか?」


リオは少し困った様な顔になり、しかし真っ直ぐな瞳で答えた。


「僕は、信じてるんだ」


その答えを聞いて、アントンは笑顔を浮かべた。


「お前さんが諦めてないなら、俺はお前さんが成し遂げるまで生きていようかねぇ」

「そうしてくれ」


リオがそう言うと、アントンはニヤリと笑って言った。


「お前さん、若いのに友達いねぇからな」

「帰る」

「ちょっちょっと待て、冗談だって!冗談だってば!」


そのまま、リオは立ち止まる事は無かった。

かすり傷致命傷だった様だ...

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