第39話あのね、私ね

【あのね、私ね】


……その時、後ろから


「あら?裕子ちゃん?」


振り替えると、叔母様が・・・なんで?


「叔母様?」


ニヤニヤしながら齋藤部長が私のところに寄ってきたけど、それを無視して叔母様に向かって


「どうしたんですか?」


「うん、ちょっと用事があって名古屋に来たの、

裕子ちゃんは?」


「はい、明日、仕事で」


「そう、じゃあこれから一緒にお食事でもどう?」


「はい」


いつの間にか、すぐ後ろに齋藤部長が???って顔で


「裕子ちゃん、その人は?」


「はい、私の叔母です」


「え?」


「裕子ちゃん、この方は?」


「はい、営業部の齋藤部長です」


「あら、そう、初めまして、うちの橘と裕子がお世話になっております」


「橘?」


「はい、橘の妻で裕子の叔母です」


「橘・・・専務?・・・叔母?・・・は、は、はじめまして、橘専務には大変お世話になっております」


「いえ、こちらこそ、ところで今日は裕子ちゃんと2人ですか?」


「はい、明日、名古屋支社で仕事がありまして」


「朝から?」


「いえ午後からです」


「そう、じゃあそれまで裕子ちゃんをお借りしますね」


「あっ、はい、でもホテルはここを取ってますので」


「あら、でも別にここじゃなくてもいいんでしょ?」


「・・・はい・・・」


「じゃあ、明日のお昼まで裕子ちゃんをお借りしますね、裕子ちゃんもそれでいいでしょ?」


「はい」


泣きそうだった、でも絶望の中、1点の光りが……


叔母様が私の耳元で


「そうそう、あなたの大切な人も一緒に来てるのよ

3人でお食事でもしましょ♡」


えっ? まさか・・・・・・


叔母様がにっこりして反対の方に顔を向けるので、その方向を見ると、

柱の影に体を隠して手だけを突き出してVサインしている。


「克己君?」


「あら? あの手だけでわかるの?」


来てくれたんだ・・・どうしよう・・・泣きそう・・・


思わず、柱の方に歩きだし・・・だんだん小走りになって柱に着くと


「裕子さん」いつもの聞き慣れた声


「克己君」言うや否や、柱の影に引っ張られ・・・抱きしめられた。


やっぱり克己君だ。


私は我慢していた感情があふれ出して、思いっきり泣きながら克己君に抱き着く


「大丈夫ですか?」やさしい声。


「ううん、大丈夫じゃない」


「うん」そう言って強く抱きしめてくれる。


今頃になって気づいた、諦めていた克己君が目の前にいる、私の好きな人、ううん、大好きな人、私は本当にこの人の奥さんになりたいんだ、離れたくない。


しばらくこのまま克己君にしがみつくように抱き着いていた。


「裕子さん、心配したんだよ」


「うん」


「もうこれからは、あいつと関わっちゃダメだよ」


「うん」


「俺以外は全部ダメ」


「うん」


「平気?」


「もうちょっと」そう言ってまた抱き着いた


「うん」さらに強く抱きしめてくれる。


もう少しこのままでいたい。


ようやく落ち着いてきて、大好きな克己君の顔を見ると、克己君も泣いていた。


「なんで克己君が泣いてるのよ」


「えっ、泣いてないですよ」


「ほら」そう言って頬に手を


「ほんとですね」


「もう、男の子はそう滅多に泣かないの、お子様なんだから♡」


そう言って、また抱きしめ、顔を克己君の胸に埋めた。


なにもかも諦めかけていたところに叔母様が現れて、そして大好きな克己君もいて、克己君に甘えるように抱き着いていたら、いつのまにか叔母様が私の後ろに立って


「裕子ちゃん?」


その声を聴いて、ちょっと落ち着いてきたので克己君から離れて、叔母様の方を向いて


「ありがとうございます」


「ううん、いいのよ、お礼は克己君に言ってね、克己君が橘に相談してくれたからわかったことなんだから」


「はい」


「それじゃあ3人でお食事にでも行きましょうか」


「ハイ」あいつが何か言っているようだけど、叔母様があいつに向かってニッコリ「それでは明日」


そう言って、3人で、叔母様と克己君が予約しているホテルに行き、そこでチェックインをして私と克己君が同じ部屋に。


荷物を置いて3人で夕食にはちょっと早いので、ラウンジでコーヒーを飲みながらお話しした。


「克己君が橘の所に、あの人と2人きりで名古屋に出張に行くのはあやしいって言ってきたのよ、それであの人の悪い噂とかもね。

いつも裕子ちゃんを誘ってるんでしょ?

それを聞いた主人がね、将来の甥っ子になるかも知れない人と2人で名古屋に行って裕子ちゃんを助けてきてくれって言われてね。

私ね、克己君とは初対面だったけど、新幹線で色々お話したのよ」


私は、あいつが、ホテルを1部屋しかとっていなかった事、仕事は明日の午後からで、わざわざ今日泊る必要はなかったことを伝えると


「じゃあ、私達が名古屋に来て正解だったわね」 


いつも積極的にぐいぐいくる克己君は、私と叔母様が話しているのを黙って聞いている。


でも隣にいてくれるだけでうれしくて、なんで今まで気づかなかったんだろう、そう思っていると私の手を握ってくれて、あ~これが幸せなんだ、この人が好きなんだーって胸のあたりがむずむずして来て、何もしてないのに恥ずかしくなって


「あら?裕子ちゃん顔が赤いわよ?」


 フフフ、うん、わかってる、だからちゃんと紹介します。


 「うん、叔母様、改めて紹介します、私の恋人の高谷克己さんです」


「恋人?婚約者じゃなくて?」


「・・・はい、私に勇気がなくて、まだ、お返事していなくて・・・」


「じゃあ、早くお返事して、うちに挨拶にこなきゃね♡」


「はい」


ずーっと抱き着きたい、抱きしめられたい。 


そんな気持ちでいっぱいなんだけど、3人でお食事をして叔母様にも克己君をもっと見てもらいたくて・・・


もうあいつの事なんてどうでもよくって、それからの1日はとても楽しかった。


それからホテルで叔母様と別れて、克己君と同じ部屋に。


本当は克己君1人が1部屋で、私と叔母様2人が1部屋なのだろうけど、叔母は気をきかせてくれ、克己君と取り換えて私と克己君が同じ部屋に。



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