スローライフと異世界競奏
柚原ㅤ桜弥
プロローグㅤ一寸先は異世界
第1話 無機物な黒と艶美な桜
私立文系の大学生の学校生活は楽だ。
ㅤなんてよく言えたもんだ。
ㅤまあ、自業自得なんだけど。
ㅤ流石に、一気に授業を取り過ぎた。
ㅤ「1年生の時は授業を無理してでも取れ」なんて先生が言うから……。
ㅤ真に受けた自分が馬鹿だった……。おかげさまで、今日の6時間目なんて疲れきって爆睡だった。
ㅤ現在時刻は22時を過ぎようとしている。
[Full Combo!!]
電車の小刻みな揺れを感じながら、無機質なディスプレイに英語の文字と、刹那眠そうな顔が映る。
ㅤ最近の唯一の楽しみ、それが音ゲーだ。なんていったって、最近の音ゲーのほとんどはキャラよし、曲よし、イベントよし。何かと文句をいう愚か者もいるようだが、少なくとも満足できるくらいには楽しい。
上の通知バナーが反応した。
ㅤRINONEのメッセージが届いたようだ。相手はなんとなく想像がつく。あまりメッセージするほどの相手がいないから。
ㅤちくしょう。リア充、爆発はしなくていいから、幸せ分けてくれ。
ㅤ何はともあれ、音ゲーの最中じゃなかったのは不幸中の幸いか。
RINONE:山名 柚希
最近調子どう?授業とかサボってないでしょうね??ゲームばかりやってないで、授業ちゃんと受けなさいよ!
RINONE:寒河江ㅤ師走
なんだよー!柚姉は、お母さんじゃないんだから、そこまで言わなくても……。授業もちゃんと出てるよ。
RINONE:山名ㅤ柚希
ならいいけど。
明日あなたの家にいっていい?
どうせ、1人暮らしでまともに家事とかやってないんでしょ。お母さんが煮物作りすぎちゃったみたいだから、おすそ分けに行くわ。
おやすみ。
ㅤ僕、寒河江師走には、幼なじみの姉妹がいるのだが、メッセージの相手はその姉、山名柚希である。何かと山名家にはお世話になっているのは事実であるが、柚姉は世話を焼き過ぎではなかろうか。
ㅤ自分がかなりのめんどくさがりであることは自覚しているので、ありがたくないこともないが、柚姉が心配性でしっかりしすぎて、ちょっと気後れする。
ㅤただ、今回はメッセージの内容があまりに図星すぎて、本当に何も言えないのでここは言葉に甘えさせてもらうことにしよう。
RINONE:寒河江 師走
明日は昼から大学の授業があるから、家に来るなら朝来てほしいかも。お母さんにありがとうございますって伝えておいて。
RINONE:寒河江ㅤ師走
柚姉も忙しいのにありがと!!
おやすみ!
カタっ!
ㅤRINONEのメッセージを送って、携帯をスリープした直後に意識が飛んで、スマホを床に落とした音で目が覚めた。スマホの角が少し欠けた。やっちまった。
ㅤ「次は桂散、桂散。お出口は左側です」
ㅤ ―――――もう次か!?
ㅤ慌てて降りる準備をした。
ㅤ「桂散、桂散。ご乗車ありがとうございました。閉まるドアにご注意ください」
ㅤ眠い目をこすりながら最寄りの駅を降りると、この季節にしか味わえない優美な桜が線路沿いで出迎えてくれた。
ㅤ桂散駅。
ㅤいつぞやの雨に降られた時は、本当に鬱陶しさしか感じなかった屋根なしの駅だが、この夜空の星をバックグラウンドに散りゆく桜が見られたことには感謝しなければならない。エスカレーターがあるにもかかわらず、屋根くらい設置できるだろう。いつもの愚痴も今日は飲み込んだ。
ㅤ(柚姉も心配してたし、さっさと帰るか……)
ㅤ!?
ㅤ一瞬、桜の花びらが音ゲーのノーツに見えた……。いやいや、さすがに疲れすぎている。さっさと家に帰って、寝るにこしたことはないだろう。
ㅤため息まじりに、歩きスマホでエスカレーターに乗る。
ㅤ明日の授業を想像しただけでも倦怠感が押し寄せる。リュックの重力を感じる。大学って、こんなにつまらないものなんだろうか。
ㅤマイナス思考に浸りながら改札へ向かおうと、エスカレーターを降りて顔を挙げた。
ㅤスマホが落ちた。
ㅤ「ここ、どこ……だ……?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます