第12話
死体となったはずの武田がむくりと立ち上がった。
「そんなバカな……死人がよみがえるわけがない!」
「それがありえるんだよ。私の能力(チカラ)ならね。君たちはいま奇跡を目にしているんだ」
背筋がゾッとするほど低い大人の男性の声が頭上から降り注いでくる。
ずいぶん前から僕たちの様子をそこで観察していたのだろう、その男は二階の階段から武田の死体を見て騒ぎ立てる彼らを滑稽そうに見下ろしていた。
いったいいつから彼はそこにいたのか。
ここにいるはずのないその声の主に神庭も樋口も鈴木も驚きの色を隠せなかった。
男はゆっくりとした足取りで階段から降りてくる。
「渡部さんどうしてあなたがここに……」
「最初からさ。キミ達は気が付かなかったかもしれないが僕はずっと佐藤君の部屋に隠れていたんだよ。ベッドの下にね。佐藤君には事前にみんなを驚かせたいから僕がここに来ていることは内密にと釘を刺しておいたからね知らなかっただろ。どうだい。びっくりしただろ?」
渡部は古ぼけた本を脇に抱え、まるでステップを踏むような軽やかな足取りで彼らの前に降り立つ。
「む?あぁ、この本が気になるかい?この本はね。私がほとんどの私財を投げうってようやく手にしたものなんだ。ネクロノミコンという名前は聞いたことあるかい?」
「魔導書……ですか?」
神庭は蚊の鳴くような小さな声でポツリとつぶやいた。
「流石は今回の名探偵役。君のように賢く優秀な人間の血がこの魔導書の贄となればその効力はさぞ絶大なものになるだろうね」
大学OBである渡部洋三はこれまで多くの時間をオカルト研究に費やしてきた。
その全ての努力の結果が今まさに結実しようとしている。彼が今、履いているボクサーパンツもその努力の賜物だ。パンツにはびっしりとブードゥー教の秘術発動の際に必要な文字とオグンのシンボルを書き込まれ、魔導書の能力を増幅する役割を果たしている。
この呪術パンツを履いているお陰で今の渡部は生きている人間すらある程度コントロールすることができる。魔導書を用いて武田という駒を手にした彼は、自分の手を血で染める代わりに彼に殺人を起こさせた。
殺人が行われ屋敷がパニックに陥っている間、彼は佐藤の部屋のベッド下に隠れ、事が終わるのを待っていればいい。
ただそうしているだけで悪魔へ捧げるための供物は増えていくのだから。
そう、これまでの一連の犯行は全て渡部が裏で糸をひいていたのである!!!!
「ベッドの下にずっと隠れているのは退屈で退屈でね。こうして痺れを切らしてしまったわけだけど、ここまで来たら結果は同じさ。君たちは全員死ぬ。私の行使するこの復活の秘術によってねッ!!」
渡部がネクロノミコンのページを開くとそこから紫色の目映い光が溢れだした。
「さぁ!!武田明人君よ。やっておしまいなさい!!」
水戸黄門でいうところの『助さん格さん、懲らしめてやりなさい』とほぼ同じ口振りで渡部が武田に指示を出す。
ゾンビとなって復活した武田は神庭たち3人を一瞥しペロリと舌なめずりしながら
「オデ、オマエラ、ミナゴロシニスル」
神庭はゆっくり目を閉じ、できることなら苦痛を感じることなく死ねることを望んだ。瞼からホロリと涙が一筋、零れ落ちる。
ぴえん。
終劇。
#####
「終劇っと」
良いものが書けたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべる部長とは対照的に俺はすっかり言葉を無くしていた。
「部長……」
「何だ?」
「いえ……なんでもないです……」
完
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