私説「商論」――顧客満足(CS)という麻薬――
永礼 経
第1講「顧客満足」という考え方
いまや改めて私が述べる必要はないほど浸透している商取引の原則ともいえる考え方であります、「顧客満足(カスタマーサティスファクション、略してCS)」という考え方でありますが、皆さまはそれぞれのお仕事において一度ならず耳にしていることかと思います。
「お客様が満足してくれればまたご利用いただける。だから、もっとお客様を満足させるよう工夫しましょう」
という考え方です。
私は現在49歳でありますが、私が社会人として初めて就職したのは25歳の時でありました。
地方のそれほど大きくないフランチャイズチェーンのお店の1フランチャイズオーナーの下に就職した私は、アルバイト上がりであるため商売というものや仕事というものについて、全くの素人でした。
当時は「大量消費」の時代が終焉を迎え始めたころでありました。
おそらく世の中のご商売をされていた方の大半が、バブルの崩壊の影響が大きく影を落としてきたころではなかったかと思います。
当店も皆様同様に売り上げの前年割れを更新し続けるような状況にありました。
私がこのころ出会った考え方が「顧客満足(以降CSと表記します)」でした。
「顧客はこれまでのようにほしいものを全てその潤沢な資金によって購買することが難しくなってゆきます。例えば、週に2回の外食をするといたしましょう。この時、顧客はどのお店を選ぶでしょうか。これまでであれば、あっちのお店も試してみようか、こっちのお店もいいかなと、資金に余裕がありましたから、それほどお店の質にこだわらなかったかもしれません。一度試してみて、合わなかったら次からやめておけばいい、そういう余裕がありました」
「それよりも、あのお店に行ってきたよ、こっちのお店はこうだったよなどという情報を持っていることの価値が高かったとも言えます。情報ツウな人だなということが一つの価値であったのですね」
「ところが昨今の経済状況において、そのような余裕はなくなってしまいました。そうなるとどうなるでしょう。無駄にお金を使うことを避けるようになると思いませんか。つまり、1度の外食についてその価値が相対的に高くなるのです。外食できるのは週に2回しかない、だったらせめておいしいものを、いい店で、いい気持ちで食べたいと思うのが当然です」
「ですから、あなたのお店の価値をあげなければなりません。とは言っても、あなたのお店も潤沢な資金があるわけではありませんよね。高級な食材を仕入れたり腕のいい料理人を雇う資金もありません。このままでは負け組になってしまいます」
ではこのまま手をこまねいているしかないのか?
「大丈夫です。経費を使わずに、お客様の満足度を上げることができればいいのです。そのためには、従業員たちの協力が必要です」
ハイ、ここで登場「CS」。
「まずは従業員様たちに接客の教育を徹底しましょう。うちのお店はこんなに居心地がいいんですよとお客様方に知っていただくには、お客様と直接接する従業員様たちの接客こそが大切になってきます」
「大丈夫です。当店だけでなくほかのお店も資金繰りに困っているのは同じです。商品の価値はそれほど差はありません。どこで差をつけるか。それが接客です」
「週2回ずつ月8回しかお客様が外食されないのでしたら、その8回のうち何回来てもらうかが大事です。あなたのお店の方が居心地がいいという評価を頂ければ、ライバル店よりあなたのお店に来てくれる回数のほうが多くなるのは当然のこと。これでライバル店と差をつければ勝てるのです」
「従業員様方に協力していただいて、お客様にとって居心地がいい、接客がいいお店にすることで、経費をかけずにライバル店に差をつけることができるのです」
こうして、CSはうまれました。
そしてここから悲劇が始まるのです。
―――――――――――
次回は「従業員たちが背負わされるひとの心の提供」です。
次回も宜しくお願い致します。
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