精霊物語
有希
は る
その日は、
「太助、太助、よらんか、
私は十歳、太助は六歳に御座居ました。吹雪は
「姉しゃん、姉しゃん、ここが川じゃろ」
小さな太助の知っておる山の中川も、雪にあとかたなく埋もれて、川の流れに添って、雪の花が舞い踊っては、下っておりました。
「よいか、太助、私等は樵の
それから、どれ程歩いたか、太助の頬も手も、青うなっており申した。口もめったにききませなんだ。話せば声ごと、吹雪の中に、すいこまれてゆき申した。雪は目の前で、棒に布をひっかけて、ぐるぐる回すように、渦を巻いておりました。うなっており申した。何と大きうして長い白い布じゃろ、私は思いおりました。
「姉しゃん、姉しゃん、父しゃんの、木ば切っとらす!」太助の遠くちぎれた声に、じっと耳をこらすと、まっこと、かあん、かあん、と、父さんの木を打つ音の聞こえ来申す。かあん、かあん、その音の美しうして、美しうして、涙の出そうになり申した。かあん、かあん。「父さんは、やっぱ、立派な樵じゃ、こない日にも打って御座るけん」
かあん、かあん。太助は、踊るように喜こんで、頬もすっかり
かあん、かあん、私は、どんどん太助をひいて父さんの木を打つ
私はもう何も太助には言わせなんだ。私は太助に申した。
「太助よいか、あれは、父さんの木を打つ音じゃ!そう思え、太助、そう思え、そう思わんと、私等はどこへもゆけんのじゃ」雪は、どんどん深く重なって来おり申した。渦の中から、かあん、かあん、と高い、高い、父さんの木を打つ音の聞こえ来ており申した。そればかりしか、ありもうさなんだ。見たこともない、雪の中道と、そればかりであり申した。私は、持って来た、三つのおにぎりを、ふところから出して、食いとうないと申す太助に、無理にそこで食わせ申した。
「腹はいっぱいか?」
太助に聞くと、太助はうなずき申した。それから、しばらく太助の様子を見ており申した。頭巾もわた着もこおりがはっており申した。太助は腹が太って眠ったように思われ申した。私は太助をゆすって聞き申した。
「太助!私等は、これから、どこへゆくんじゃ⁉」
「父さんのところじゃ」。
太助は、そう申しました。
私は、太助をおぶって歩き申した。かあん、かあん、かあん、父さんの木を打つ音の、聞こえ来ており申した。
太助は六歳。私は、十歳であり申した
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