ラブでコメな昔遊び的アオハル日常

多雨ヨキリ

始まり

「アオハル……、どうして昔のものが現代に残っているか。分かるか?」


 僕と父は、和室の畳の上に正座で向かい合っている。


「……誰かが倉庫に保管していたから」


「違う! 違うんだ息子よ! 俺が言いたいのはそういう事じゃないんだ!」


 父は両手を前につく。


「今も需要があるから残ってるんだ。祭りではスーパーボールも水風船も必須だろ?

つまりそういう事なんだ。だから都会へ行きたいだなんて言うなアオハル!」


「そうは言ってもこの辺りは何もないじゃないか!」


 そう、文字通り何もない。


 スーパー? コンビニ? あるだけ都会さ。


 僕の家兼店の周りには田んぼと水車しかない。


 街灯もほとんど無いから、夜になれば真っ暗だ。


「とにかく、僕は高校を卒業したら都会へ行く。そしてオシャレな服を着て、きれいな大学に通って勉強して、シティーキャンパスライフを送りたいんだ!」


「まだ高校入学したてだろ!? 高校生活を楽しめばいいじゃないか!」


「全校生徒五十人なんだよ!?」


「あきらめるな、大丈夫だ! このおもちゃ屋も一族代々受け継いできたものなんだ」


「悪い風習は変えていかないと」


「ぐああああああああああああ!」


 父は血を吐き出し、床に倒れ込んだ。


「と、父さん!?」


「む、息子よ。今日この店に昔遊び研究会の方が来られる。俺はお医者さんの所へ行ってくるから接客は頼んだぞ」


 そういうとすぐに立ち上がり、目にも止まらぬ速さで店を出て行った。


 つまり厄介ごとを押し付けられたのだ。


「じゃねー、接客頼んだぞ未来の店長☆」


「待てええええ! というか昔遊び研究会ってなんだああああ!」


 僕の空しい叫び声だけが、青々とした山に吸い込まれていった。



 戸のベルを鳴らす音が聞こえた。インターホンは二年前くらいに天寿を全うされた。


 一階が店になっていて、二階が住居になっているのだ。


 僕は一階に降りる。


 どんな人なのだろうか。僕の予想では、六十代後半のおじいちゃんが、昔のおもちゃを見に来る程度のことだと思っている。


 昔遊び研究会というのも、懐かしいおもちゃを一目見たいという人たちの集まりなのだろう。言っておくが偏見だ。


「はーい」


 僕は戸の前に立ち戸を開ける。


 ガタガタと、建付けの悪い戸を左にスライドさせた。


 するとそこには、


「初めまして、昔遊び研究会の綾園 心菜あやぞの ここな。気軽にココって呼んでね」


 彼女は長い髪を揺らし、にこりと笑った。


 一方僕は心臓が限界を突破しかけていた。


 全然おじいちゃんじゃないじゃん! 可愛い! 一瞬心臓止まったぞ! なんで全然情報を聞かせてくれなかったんだよあの親父は!


春一はるいち君よね? ケンさんいらっしゃる?」


「父さんは僕に仕事擦り付けて逃亡した。探してこようか? 多分今頃適当に浜辺をぶらぶらしてるところだと思うから」


「うーんそうね、でもいい。目的は達成することができるから」


「目的……? っていうか今日は?」


 すると彼女は驚いた顔をした。


「ケンさんから聞いてないの? 私、隣町の高校の昔遊び研究会っていう組織に所属しているの。今ゴールデンウィークでしょ? その間直接店をインタビューしてもいいって許可が下りたから」


 隣町と言えど、田舎の隣町は思ってるよりも異次元だ。とんでもなく町と町が離れている。


 というか許可出したの父さんかよ。よし、帰ってきたら埋めよ。


「という訳でよろしくね、春一君」


 こうして僕に、古臭くも温かな春が舞い降りた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る