第33話 聖歴152年7月13日、めぐり合わせ
宿のジューンの部屋に入る。
「ラズ何だって?」
「あの駆け出し冒険者と自分の事が重なるんやて」
「そうか。それであんなにムキになってたのか」
「自分を救ってくれたのって、女だからと思ってる」
「そうじゃないんだ」
「うちも、そうじゃないて、ゆうたけど」
「話して来る」
「そうやね。それがええと思う」
ラズの部屋の扉をノックする。
「ジューン、何度来たって、私の考えは変わらない」
「ラズ、俺だ」
俺は扉越しに話した。
「あんたとは話す事なんかない」
「言うけどな。全ては運だ。めぐり合わせだ」
「じゃあ、私をパーティに入れたのも運」
「まず始まりからして運だ。俺はあるパーティのポーターをしてた。裏切られたわけだが、通りかかった冒険者に銀貨数枚で救ってもらった。どうだ、運以外なにものでもないだろう」
「ええ」
「ここからが凄いぞ。願いが叶うという噴水で銅貨を投げ込もうとしたんだ。だが、一銭もなかった。そしたらジューンが銅貨をくれたんだ。それを投げ込んで祈ったら、スキルが生えてた。冗談みたいだろ」
「そうね」
「それでそのスキルの力で、スライム・ダンジョンを制覇して、ダンジョンコアに細工して魔力を抜き取った。そしたらレベルが119だ。こんなインチキな人生だ」
「何が言いたいの?」
「全ては巡り合わせなんだよ。彼は巡り合わせが悪かった」
「納得できないわ」
「でも出会いって、そういうものだろ」
「納得できないけど、そういうものがあるのは理解できるわ。分かった、今回の事は忘れてあげる」
「ありがとな」
かなり後ろめたい。
俺が嫌だったという理由だからな。
今、話した事は本心だ。
ただ話してない事があるだけだ。
賭けをしてなければ彼をパーティに加えていただろう。
ジューンの部屋に行く。
「分かってくれたみたいだ」
「そうなん。良かった」
「飲むか」
「そうやね」
俺とジューンで宿屋の食堂に行き、酒と料理を注文した。
「出会いって不思議だな」
「そうやね」
「今でも、あの噴水で銅貨を貰ってなかったら、どうなったか考える」
「うちもびっくりや。本当に願いが叶うなんて嘘やと思うた」
ジューンと短い間の思い出話をして、酔って一緒の部屋で寝た。
朝、ラズが起こしに来た。
「もう、最低」
「いや、何もなかったって。ラズと仲直りした後に盛るわけがないだろ。ラズと昔話したから、ジューンともしたくなった」
「まあ、あんた達がどういう関係でも私は気にしないけど」
「頭が痛い。大きい声出さんといて」
「【無限収納】ほらジューン、水だ飲め」
無限収納から出した水をジューンが飲む。
「ぷはぁ、生き返るわぁ」
「今日の探索はどうするのよ」
「もちろんやるぞ。まきびしをみんなで作ったら、木箱の調達だ。その頃にはジューンの二日酔いも良くなっているだろう」
俺は釘と針金を出して、まきびしを作り始めた。
3人で黙々と作る。
瞬く間に今日使う分が出来上がった。
「木箱を調達してくる。ジューンはちょっと休んでろ。ラズは準備運動でもしとけ」
「はい」
「リーダー気取りね」
「俺がリーダーだよ。そこは譲らん」
「はいはい」
俺は木箱を調達に店屋をいくつか回った。
ちょうど良いのが中々ない。
足が倉庫に向いた。
レンガの倉庫には木箱が山と積まれている。
これなら良いのがありそうだ。
働いている人に声を掛けようとした。
見知った顔だと思ったら、あの駆け出しのタングルが仲間らしき人間と一緒に仕事をしてた。
「余った箱があったら譲ってほしい」
「誰かと思えばスグリさんじゃないですか。聞いて下さい。倉庫の整理の仕事を受けたら、仲間が出来たんです。まだ全員分の装備は揃ってないけど、コツコツやればなんとかなりそうです」
「良かったな。巡り合わせの不思議って奴だよ」
「そうですね。運命の出会いです。気も合いますし長くやっていけそうです」
木箱を貰って倉庫を後にした。
帰ったらラズに話してやろう。
彼は運命の仲間を見つけたらしいって。
きっと喜ぶに違いない。
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