第9話 聖歴152年6月13日、スライム・ダンジョンに入る

 街の門の近くの乗合馬車の停留所は人でごった返していた。

 スライム・ダンジョン行きは?

 あれだな。

 大きいばん馬みたいな馬が馬車に繋いである。

 スピードよりパワー重視なのだろう。


「二人頼む」


 俺は御者に声を掛けた。


「あいよ。一人銅貨40枚だ」

「銀貨1枚で釣りを頼む」

「ほい、お釣りの銅貨20枚だ」


 銀貨1枚を渡すと、糸で縛って銅貨10枚が一まとめになった物を、二つ渡された。

 乗合馬車に乗り込む。

 後ろの席が空いている。


「あそこが空いている。腰かけよう」

「はい」


 しばらく待つと馬車は走り始めた。

 門を抜け、街道をゆっくりと進んで行く。

 二つ村を経由してスライム・ダンジョンに到着した。


 ダンジョンは久しぶりなので1時間ぐらい試しに潜ってみるか。

 それなら夕暮れまでに、ダンジョン脇の宿に戻って来られる。


「よし、行くぞ。ダンジョンアタックだ」

「はい」


 ダンジョンの受付に並んだ。


「次の方」


 俺達はタグを出した。


「159-32871と159-32872だな。ダンジョンコアの討伐は許されていない。討伐した場合は死刑だ」

「分かってる」

「はい」

「入っていいぞ」


 ダンジョンの入口は普通の洞窟と変わりがない。

 だが、入ればすぐにダンジョンだと分かる。


 床に幾何学模様。

 そしてその上に浮かぶオーブ。

 ポータルだ。


「ぷかぷか浮いて、不思議やね」

「重力制御でもしているんだろう。転移するのに重力が邪魔なのかもな」

「重力なんて言葉を、初めて聞いたわ。意外に博識やね」

「まあ昔、ちょっとな」


 ポータルは攻略済の階層から再開できる施設でこれに触ると転移が出来る。

 ダンジョンコアが何を意図してこういう物を作ったのかは定かではないが、一説によると危険な階層に引き込む為だと言われている。

 本当の所は分からないが、使える物は敵が用意した物でも使う。


 それと敵と言ったが、残念ながらダンジョンの討伐は許されていない。

 ダンジョンとは魔石を産出する鉱山みたいな物で、領地持ちの貴族はダンジョンが出来ると一つ位が上がると言われているし。

 事実その扱いを受ける。


「今回はポータルは使えないぞ」

「なんでや?」

「ジューンが初めてだからな。俺は前に来た事があるから使えるが。おいて行かれるのは嫌だろう」

「そうやね」


 俺達はポータルの間を抜けて通路に出た。


 壁はゴツゴツした灰色の岩で出来ていて、床は赤茶けた土だ。

 よくあるダンジョンの風景だ。


「この通路を進むと分岐したり、少し空間が広がった部屋に出るんだ」

「建物みたいやね」

「もっと似てる物がある。アリの巣だ」

「納得やわ」


 部屋と通路を隔てる扉はない。

 なのでモンスターは部屋から何時でも移動できる。


「見ろ、スライムが通路を這っている。こいつは徘徊型だな」


 スライムは半透明で中に内臓と思しき物が浮いている。

 案外、クラゲのモンスターだったりして。


 スライムがのろのろとこちらに向かって移動してくる。


「徘徊型?」


「モンスターは守護型と徘徊型に分かれる。守護型は部屋から出ない。徘徊型しか通路を歩き回らない」

「へぇ」


「このタイプは何で決められているかといえば、ダンジョンコアの指令だというのがもっぱらの説だ。扉がないと言ったが例外が一つある」

「なんなの?」

「ボス部屋だ。ボスの部屋は扉で区切られている。何でなのかは、ボスが逃げ出さない様にだとか、中に入った人間を確実に殺す為だとか色々な説があるが、俺達には関係ない」


「ダンジョンのモンスターは普段、何を食っているんや」

「ダンジョンのモンスターは飲み食いしなくても生きていけるらしい。ダンジョンコアが魔力餌という物を与えていると考えられている。しかし、モンスターは人間がダンジョンに入ると容赦なく喰らう。人間はおやつ代わりなのかもな」


 ダンジョンのモンスターの死骸は数分で消える為、倒したら魔石を素早く抜くのが得策だ。

 モンスターの死骸を全部持って帰ろうと思ったら、収納スキル持ちを連れてくるしかない。


「モンスターは繁殖したりせぇへんの?」

「するが、大抵は討伐のスピードの方が早い。なので、コアがモンスターを召喚してきて補充する。地上のモンスターを全て全滅させればダンジョンのモンスターも居なくなるらしい」

「無理やね」

「無理だな」


 スライムがそろそろ戦闘範囲に入ってくる。

 討伐開始といくか。

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