第7話 聖歴149年4月2日、振られる
ああ、また夢だ。
この場面は確か。
「俺は使い込みなんかしていない」
長老の家に行ったんだったな。
長老は白い髭を生やしていて、ゆったりとした白い衣服を身に着けている。
仙人みたいな恰好で、武術の腕は確かだ。
スタミナがないので持久戦に持ち込めば俺にも勝機がある。
訓練では散々お世話になった。
俺の曽祖父の兄弟に当たる人物だ。
「じゃが、証拠があるのなら、どうにもならん。不服なら、決闘を申し込むのじゃな」
それが出来れば苦労はしない。
ウスタにも勝てないし、スキルを得たハックルに敵うとは思えない。
「何か他に方法はないのか?」
「力こそ全て、強ければ全て許される。正義を成したかったら相応の力をつける事じゃ」
「分かったよ。もう頼まない」
俺はドアを乱暴に閉めて長老の家を出た。
どうしよう。
あと頼りになりそうなのは、婚約者のローズだな。
贈り物を持たないで押し掛けたら嫌がられるだろうか。
ローズの所に行く途中、森で花を摘んだ。
リボンが欲しいところだが、贅沢は言えないな。
ローズに会えると思うと俺の気分は少し上向く。
婚約は家の都合で決められた。
俺の家の補足をしておくと俺の家名はグロウクラスター。
今は追放されて名乗れないが。
まあそれはどうでも良い。
一応、グロウクラスター家は男爵の身分を賜っていた。
一方、婚約者のローズの家は同じ男爵家だが、経済規模は月とスッポンだ。
どちらが月かといえばローズの家だ。
ローズの家は元々商家で、莫大な財産を築いた。
そして、貴族の権利というか家を買ったのだ。
貴族社会では成り上がり者と馬鹿にされているが、金を借りていて強く言えない貴族も多い。
俺はローズの家の門を見上げた。
獅子の装飾がされていて、立派な門だ。
門番に会釈して通ろうとすると、止められた。
「通してくれないか。ローズに会いたい」
「いまお嬢様に聞いて参ります」
門番の一人が邸宅に報せに行った。
散々待たされて、ローズが白い二頭立ての馬車でやってきた。
繋がられている馬も純白だ。
「あら、まだいたの」
ローズは銀髪で何時もの縦ロールの髪型をしている。
久しぶりに会ったが、相変わらずスタイルはいい。
「話を聞いてくれ。家から追い出された。再起してあいつらに復讐したい」
俺は花束を馬車の窓から差し入れた。
ローズは花を一瞥して手に取ると、地面に投げ捨てた。
「聞いてませんの。あなたとの婚約は破棄されました」
ローズの冷たい声。
何だって!
好きだと言ってくれたあの言葉は嘘なのかよ。
胸が張り裂けそうだ。
いや、家の手前、演技してるんだ。
「そこを頼むよ。11年間の付き合いだろう」
「ええ、ですから。今話を聞いて差し上げてます。実りのない話のようですし、御免遊ばせ」
馬車が出て行くのを俺は
俺は待つ事にした。
馬車は数時間ほど経って帰ってきた。
馬車の窓からローズとハックルの野郎が見える。
「ローズ、ゴミムシが門にたかっているぞ」
「あら嫌だ。駆除しないといけませんわね。ゴミムシを潰して下さる」
ローズの護衛が馬車から降りてきた。
俺はメイスを抜いて構えた。
護衛はせせら笑うと怪力スキルを発動して素手で俺と対峙した。
俺がメイスで殴りかかると護衛はいとも簡単に受け止めた。
くそう、スキルなんて、糞ったれめ。
メイスごと手首を捻られ地面に転がされた。
そして、ぐりぐりと足で踏みにじみられた。
足をどかそうと頑張るがびくともしない。
ハックルが降りてきて俺に蹴りを入れ始めた。
くそう、どうにもならないのか。
散々蹴られて、最後にハックルは俺に向かって唾を吐いた。
そして、俺は解放された。
痛みに
ローズも馬車から降りて来て。
「ほほほ、ゴミムシがつぶれましたね。これに懲りたら、ここには二度と近づかないことです」
ここで完全に振られたと分かったんだった。
苦い記憶だ。
ローズから花の良い香りがした。
あれっ、ローズの香水はこんな匂いではなかったはず。
俺は目覚めた。
どうやら俺はジューンに抱き着いて眠っていたらしい。
ジューンがもがいてポカポカと俺を殴っている。
夢で嗅いだ花の匂いがする。
「ごめん」
俺はジューンから離れた。
ジューンも目を覚ましたようだ。
目を擦ると寝巻が乱れていたのを確認して、真っ赤になった。
「おはよう。寝相、悪いんだな」
「おはようさん。すんまへんな。昔から寝相が悪くて」
夢見は悪かったが、今日は頑張るぞ。
たぶんモンスター討伐の不安な心が、あんな夢を見せたのだろう。
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