桜と楓と楠と
柊 彩蘭
第1話 僕と先輩と図書室と
「
子供の頃から可愛いものが好きで、女子と間違われるほどの容姿だった僕はそう言われることがよくあった。保育園ではぬいぐるみを使っておままごとをしていた。小学校では本を読んだり可愛い絵を描いたり。お母さんはよく僕に、
「桜智、外で遊んできたら。」
と、言っていたけど、その度に僕は大丈夫〜。と断っていた。
年月がすぎて、声をかけられなくなってから気づいた。大丈夫じゃなかったのはお母さんの方だった、と。
中学に上がった頃から女子に頻繁に、「可愛いね。」と言われだした。僕の髪を触ってサラサラだ。とか、目をまじまじを見つめて、まつげ長いね。とか。それは、クラスの中心的な女子も例外ではなかったため、そういうお年頃の男子からしたら気に食わないことだったのだと思う。だから、体育の時間には、
「あれれ、可愛い桜智くんは女子と一緒に運動したら?」
と、言われたり、他にも様々な場面でからかわれるようになった。でも、僕は平気だった。男子たちのそれらの行動は僕への妬みから来るものだと理解していたからだ。
そんな僕の学校での楽しみといえば、放課後図書室で本を読むことだった。僕は部活動をしていない。運動は得意ではないし、吹奏楽部や美術部に入るよりも、図書室で本を読んでいる方が好きだったからだ。
5月下旬。梅雨の足音が今にも僕たちに追いつきそうなほど迫ってきている。今日は、ミステリの気分だった。すると、突然背後から、
「桜智くん。今日はミステリ系読んでるんだね。」
と、声をかけられた。2年になっても、友達の1人も作れない、僕の孤独を察してのことだろう。図書委員である楓先輩は、よく僕に声をかけてくれるのだ。
「今日はミステリの気分だったので。」
と、僕が答えると
「私は何読もっかな。桜智くん、オススメある?」
と、言いながら、先輩は僕の
「そうですね…。あの短編集はどうですか?」
先輩は歩いてその棚まで行くと、小さく首を傾げてこれ?と本を取りだした。僕が頷くと、先輩は本をパラパラとめくり、
「面白そうだね。」
と言って、僕の斜向かいの席に戻ってくると、静かに本を読み出した。
夕日によって照らされた楓先輩の横顔は、まるで、色づいてすぐに散ってしまう楓のように繊細で息を飲むほどに美しい。その姿を見ることも僕が図書室に通う理由の一つになっていた。
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