第5話・十月十四日の再会
「失礼
ずいずいと傲慢に押し掛けた
「関白殿下の内衆とお見受け致す! ここに
「下がりなさい
奥より
「さては
「流石は殿下の
先ほどまでの大音量とは違い、今はまろやかなに時が流れる。これが御台所の気品が為せる技なのだろうか。
「殿下のお目通りを望むとの意なれど、
「
「殿下の御身体、
「昨日まで、殿下は
この二人の
そこへ一人の女房が現れた。
関白の、もう一人の正室たる
「藤堂殿も
これには
「これは
等と折れた。
大和の主従にとって
「恐らく妾などより、大和様や藤堂殿の方が詳しかろうと思いまする。
「流石は
「せっかく館の中に入れたのです。参りましょうぞ」
「急ごう。兄と会えるのだ、心が収まらぬよ」
主従は
「遅いぞ大和、佐渡」
御殿では机に
「
「大和は名護屋の
ひとまず、二人は関白より真心の言葉を、一応聞く事が出来、胸をなで下ろす。しかし関白は一向に二人を見ようとしない。
「お身体は如何ですか」
「見ての通りだ。
「それは、よう御座いました」
「だが
その日、関白は二人の顔を見ることは無く、書物だけに目線を向けていた。
「
「
思わず主従は顔を見合わせた。仕方が無く正直に胸の内を打ち明けると、関白は悪びれること無く続けた。
「あれは少々、至らぬところがあった。しかしだ」
「あいや、喪が明けぬなかで禁を破る事は如何に」
身を乗り出す秀保に、関白は冷たく言い放つ。
「余関白ぞ」
「
「恐れながら、殿下がお読みになられる書物にも、儀礼慣例を守る
「わからぬかな弟よ。
「
「言わせておけ。それに良い言葉ではないかね。余には
「関白とは、その地位は、儀礼を重んじるものに御座いましょう。非礼の誹りは如何に」
「愚か、愚か、愚か。貴様、和州で
高虎が知る関白秀次は、こうも内に籠もった人間では無く、もう少し朗らかであった。見るだけならば壮健の
「時に大和。
「
「豊家の
「申し上げにくいのですが」
「
「やはり
ここで秀次の筆が止まる。その異変を本能で嗅ぎ取った高虎が思わず、
「どうにも先より大和は、余に説法を続けておる。佐渡、此れは後見人が悪いのか」
「兄上! 佐州は関わりの無いことに御座る」
「思い返せば天正二十年の
「兄上、兄上! 書物ばかり見ておっては、人の真心は判りませぬぞ」
「笑わせるな中納言! 余の
「有り得ませぬ!」
「貴様の
自らの屋敷に戻った秀保は、ただただ溜息を吐くばかりであった。
「呆れたものだ。我が兄が
秀保の言葉の中で
「佐渡、我がままを言うて良いかね」
「はて、如何様に」
「今から触れを出せば、今日中に洛中を出られようか?」
この言葉に、兄へ、そして聚楽第への落胆を見る。それは高虎も同じ事であった。
「急ぎ
京の都から大和郡山の帰路は十二
朝に出て、休みを知らずに馬を飛ばせば、その日のうちに辿り着く事が出来る距離ではある。ただ堂々とした凱旋であれば、ゆるりと進みたい。
そうなると
庄九郎と孫作の二人には、大和衆各家へ見回りを命じた。
皆、遊びに出ていたが、既に帰国の支度は調えていた。であるから、帰国日の前倒しに動じる者は皆無であった。大和衆の結束の強さは、秀保と高虎の誇りである。
この中で唯一、
あれこれ指示をしていると、長右衛門が駆け込んできた。誰ぞ客人があるらしい。
「誰かね」
「
「法印様か?」
「その内衆の落合殿に御座います」
藤堂家との関わりでは、やはり庄九郎の事で親しくなった。すなわち謀反人として死んだ信重の妻子が、今も健在である事は彼の赦免に依るところが大きい。
落合なる内衆が言うには、本来であれば黄門様へ御挨拶に伺うところであるが、所司代の政務に追われ叶わない。仕方が無いので藤堂殿へ
要は、勝手に帰国する日程を前倒しするな、との叱責である。
ともあれ所司代と秀保主従の仲は至って平常であるから、そこまで心配することは無かろう。然しながら礼儀は必要であるから、心ばかりの詫びとして懐から
そうこうして秀保たち大和衆は、ようやっと帰国の途に就いた。
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