第67話



「ゼルナってば、全然挨拶に来てくれないから心配したよ」


「…………遅い」


「ナイスタイミングの間違いじゃなくて?」


「わお……ゼルナが爆発寸前だ。血塗れのパーティーになるとこだったな」


「僕はそんな事しない……ウェンディの前では」


「おー……怖っ」


「まさかこんなに早く接触しようとするなんて思わないじゃん……?余程追い詰められているんじゃない?」


「まぁ、間に合ったから良かった良かった!」



会話に入ってきた二人の姿を見て、言葉を失っていた。

ハッとした後に確認するように声を掛ける。



「………お二人は」


「久しぶりだね!ウェンディ」


「この間の姿も可愛かったけど、今日はとても美しいね」


「ルド様とマルコ、様……?」



目の前には別邸でゼルナの結婚を祝いに来てくれたルドとマルコの姿があった。

厚い眼鏡にボサボサの髪……平民である彼らが何故パーティーに参加しているのか。

頭にある情報が纏まらずに混乱していた。


問いかけるようにゼルナに視線を送ると、どこか安心したように息を吐き出した。

視線を戻すと二人は以前と同じようにニコリと笑っていた。



「覚えていてくれたの?嬉しいな」


「やっぱりウェンディは良い子だよね」


「…………どうして、ここに?」



その言葉と共に、ルドとマルコがくしゃくしゃな髪を整えてから眼鏡を取る。

見覚えのある姿にポカンと口を開いていると、二人は顔を見合わせた後に悪戯が成功した子供のようにはしゃいでいる。



「アーノルド・ベネット・ベルタだ!」


「オレはディマルコ・ベネット・ベルタだよ!この間はクッキーとパウンドケーキをご馳走様」


「~~~ッ!?!?」


「ほら、いい反応してくれるじゃん?」


「最高だね、ウェンディは」


「ウェンディで遊ぶな……怒るぞ?」


「はいはい。相変わらず固いよな……ゼルナは」


「そうそう!」


「…………はぁ」



ゼルナの大きなため息が聞こえた。


目の前に居るのは、この国の第一王子であるアーノルドと第二王子であるディマルコであった。


別邸に来た時は変装をしていて、尚且つ自分達のことを「平民」「ゼルナの友達」だと言っていたが、透き通るような銀色の髪とゼルナと親しい事を考えれば、簡単に辿り着ける答えではなかっただろうか。


(私ったら、どうしてこんな簡単な事に気づけなかったのかしら……)


そんな自分が恥ずかしくなり頬を赤くした。

あの時は余裕がなかったとはいえ、二人の王子を前にあのような態度をとってしまった事を後悔していた。


失礼はなかったかと、思考を巡らせてあの時の事を思い出していると、直ぐにゼルナが頬に手のひらを寄せて抱き込みながら「サプライズしたいって言われていたんだ。驚かせてごめんね」と言って申し訳なさそうに眉を寄せた。



「全面的に協力する代わりに、これだけは絶対に譲れないと言われて……仕方なく」


「ゼルナ様……」



その言葉に首を横に振り、心配そうに此方を見つめるゼルナを見上げた。



「ウェンディ、大丈夫?驚かしてごめんね」


「大丈夫です。此方こそごめんなさい、気付けなかった自分が恥ずかしくて……」


「ウェンディには申し訳ないけど、驚いている顔……すごく可愛かった」


「……!!」



二人で顔を真っ赤にしていると、アーノルドとディマルコがヒューと口笛を吹く。



「熱い二人だねぇ」


「本当にな」


「「…………」」


「そこの二人とは大違いだな」


「「!!」」



ディマルコはジャネットとフレデリックの方をチラリと見る。

そんな時、後ろから凛とした声が耳に届いた。



「……アーノルド殿下、いい加減になさって下さいませ。それ以上は己の品位を下げますわよ?」


「ディマルコ殿下もですよ?ウェンディ様が困っているではありませんか」


「こんな事をしてばかりいるから王妃陛下が心配なさるのですわ」


「ウェンディ様はわたくし達の大切な友人……あまり悪戯していると怒りますわよ?」


「……げっ」


「…………うわぁ、出た」



その声を聞いた瞬間、アーノルドとディマルコは視線をサッと逸らしてゼルナの背後に隠れるように身を寄せた。


そして見覚えのある令嬢達を見てホッと息を吐き出した。



「レイナ様、ミア様……!」


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