第51話
「パーティーに新しいドレスを作るのは当然でしょう!?それが婚約者の務めじゃない」
「何着ドレスを買えば気が済むんだよッ!もう、うんざりなんだよ……!!」
「はぁ!?信じられない……っ」
「こんなに贅沢ばかりしてどういうつもりだよ!?それに、あっちの角にある店ならいいと……」
「嫌よ、絶対に嫌ッ!あんな古臭い店でドレスを買うなんて正気……!?頭おかしいんじゃないの!?」
「……ッ」
「わたくしは、いつもこの店で買っていたの!!この店のドレスじゃないと嫌なのよッ」
「……付き合ってられないよ」
「何よッ!当然の事なのよ?この店にはわたくしに似合うドレスがいっぱいあるの!!」
「我儘ばかり言って……ウェンディはそんな事一度も……ッ」
自分の名前が聞こえてドキリと心臓が跳ねた。
「ッ、あんな子とわたくしを比べないでよ!どう考えてもわたくしの方が上でしょう!?それに、あの子の名前を出さないでって何度も言ってるでしょ!?」
「はぁ……最悪な気分だ!!この件はデイナント子爵に報告させてもらう」
「ちょっと!!ふざけないでよ……ッ!たかがこれくらいで報告なんて馬鹿じゃないの」
言い争う二人……ふと、ジャネットが此方に気づき目を見開いた。
先程の喧嘩を見られているとは思っていないのか、急にフレデリックと腕を組んでから思いきり体を寄せて無理矢理笑みを浮かべる。
恐らくフレデリックとの仲の良さをアピールしたいのだろう。
二人が寄り添う姿を見て、体が強張って動けなくなった。
「もういいわ、フレデリック」
「は……?」
「ねぇ、見て……ほら、あそこに」
「……っ」
フレデリックは怒りながら「何なんだよ!」と小さく声を上げたが、視線の先に気付いたのか、ゆっくりと振り返る。
「ウェンディ……!」
驚くフレデリックと目が合うと、ズキリと胸が痛んだ。
自らを落ち着かせるように胸元で手を握る。
「久しぶりだな、ウェンディ!いつ王都に……?デイナント子爵も夫人も寂しがっていたぞ?君が嫁いで行ってからなかなか顔を出してくれないからと」
「…………ぁ」
「見た目が変わった……?すごく綺麗になったね」
「……っ」
フレデリックのその言葉を聞いた途端、ゾワリと鳥肌が立つ。
横ではジャネットが勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「…………ッ」
「……ウェンディ?」
まるで何もなかったかのように、悪びれのない様子で話すフレデリックの姿を見て愕然としていた。
当然のように掛けられる言葉には、申し訳なさなど微塵も感じなかった。
(私の感覚がおかしいの……?)
此方の気持ちなど一切、関係ないのだろう。
突き付けられた現実に胸が騒ついた。
恐らくフレデリックの中に、裏切った罪悪感など微塵もないと気付いてしまったからだ。
塞がりかけていた傷が疼き出す。
それと同時に、自分がいかにどうでもいい存在なのかを思い知らせたような気がした。
「フフッ……ウェンディ、こんなところで一人で何してるの?」
「………お姉様」
「わたくしはフレデリックと次のパーティーに着ていくドレスを選んでるの……ねぇ?」
「あ、あぁ……」
「そんな所で侍女も連れずに何してるのかしら……?もしかしてマルカン辺境伯の変わり者の子息に一人で適当にドレスを買ってこいって言われたとか……?フフッ」
「おい、ジャネット!やめろよ」
「だってぇ、こんなところに一人で立っている理由なんて他にないじゃない?」
「…………」
「そんな言い方はよせ、ウェンディが可哀想だろう!?」
「本当……どこに行っても同じ。貴女は選ばれないのよね?」
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