第50話
「買い物、ですか……?」
「そうだよ!早速、ウェンディを甘やかすチャンスだね」
「え……!?」
「パーティーに着ていくドレスを新調しよう!それから普段着るドレスにお茶会用も……」
「ゼルナ様……!そんなに沢山は……」
「僕は昨日、ウェンディに似合うドレスの色を考えていたら楽しくなって眠れなかったよ」
朝食を食べ終えて、部屋に戻り街に行く支度をしていた。
馬車に乗り込み、ゼルナに「ウェンディはどんなドレスが好き?色は?形は?」と問われて戸惑ってしまった。
何故なら、フレデリックに希望を聞かれた事なんて今まで無かったし、行く店もいつも決まっていた。
高いドレスなど一度も強請った事がない為、縁がなかったのだ。
一緒に買いに行っても大抵「これでいいよね?」と言われていたからだ。
もし難色を示すと決まって不機嫌になってしまい「好きにしたら?」と選ぶ事をやめてしまうのだ。
それからはフレデリックに任せるようにしていた。
そのことを不思議そうにしているゼルナに話すと、彼は笑みを浮かべながら「僕なら絶対にそんな事しないけどねぇ?」と言いながらポキポキ指を鳴らしていた。
そして馬車が止まり、ゼルナのエスコートで段を降りると目の前には王族御用達の超高級ドレスショップがあった。
人生で一度は着てみたいという令嬢達の中でも憧れのブランドである。
会員制で選ばれた貴族達しか入れない。
姉が何度か父に頼んではいたが子爵家では、とても手が出る筈もなく……。
(も、もしかして……この店に入るの?)
足がすくんでしまうのは致し方ないだろう。
立ち止まっているとゼルナが不思議そうに此方を覗き見る。
「どうしたの?ウェンディ」
「あの……」
「ちゃんと予約してあるから大丈夫だよ?」
戸惑っていると、少し離れた場所にある店が目に入る。
あの店には流行りのドレスが沢山あり、令嬢達の中でも人気の店だった。
姉はいつもこの店でドレスを買ってもらっては自慢げに見せびらかしていた事を思い出す。
この店にもフレデリックと入った事はなかったが、視線は自然と店の方へと向いた。
「いつもここでドレスを買っていたの……?」
「いえ、そういう訳ではないのです……」
「ウェンディの気になるドレスがあるとか?」
「…………入った事はないんですけど」
ドレスを選ぶことに余り良い思い出はなかった。
自信の無さも合わさって前に踏み出せない。
しかしゼルナを困らせたくないと、ギュッと唇を噛んだ後に自分の気持ちを吐き出した。
「本当に私があの店に入ってもいいのでしょうか……?」
「!!」
「その、着こなせる自信が……ないのです」
「でも、さっきあの店にも入った事はないと言っていたよね?いつもどこでドレスを仕立てていたの?」
「もっと向こうにある角のドレスショップで……オーダーをした事はないのですが」
「…………。ウェンディの元婚約者はニルセーナ伯爵家の令息だったよね?」
「はい、そうです」
「ふーん……向かいの店のドレスも見てみようか。一応、ね」
何かを考え込んだあとに「店に知らせに行ってくる」と、ゼルナの背中を見送りながら、気分を害してしまったかと反省していると、少し離れた場所で男女の言い争う声が聞こえてくる。
この店の斜め向かいにあるドレスショップの前……。
見覚えのある姿を見て、目を見開いた。
(お姉様とフレデリック様だわ……!)
何やら険悪な雰囲気である。
「わたくしは、ここのドレスでパーティーに参加したいのッ!!」
「いい加減にしてくれ……っ!この間もドレスを買ったばっかりだろう!?」
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