第48話


「その仮面は……?」


「あぁ……いつもパーティーに出る時には、これをつけていたんだ」


「……!!」


「変人扱いだったし、色んな噂が広まっていた。でも、この素顔がバレるとすぐに婚約を申し込まれるから、それが嫌で……」


「それで、仮面を……」


「…………うん。今ならこんな事をしても意味がないって分かるんだけど、その時は僕自身を見て欲しくて必死だったんだ」



ゼルナはそう言うと過去の事を語り始めた。

仮面を付ける前、この姿を見た令嬢達は「是非にでも」と婚約を申し込んでくる。

しかし別邸での生活を見せると、嫌悪感を滲ませるか有り得ないと言って去っていく。


何度も拒絶されていくうちに、本当の自分は誰にも受け入れられないのではないかと思っていた。

期待のこもった眼差しは自分に対してではなく、肩書きと外見だけだと……。


次第に外に行く際には仮面を付けるようになった。

顔が隠れると、誰も近付いては来なかった。

しかし、これが答えだと思った。



「…………ずっと父と母のような関係に憧れていたんだ」


「憧れ……?」


「うん。父は……見て分かる通り、昔からの王族らしくなくて変わり者だった。貴族という枠に囚われたくないと様々な事に挑戦して、今では立派に国の役に立っている。僕はそんな父を尊敬している」


「……はい」


「母はどんな父も大好きだと言って受け入れていた……とても仲が良くて、僕もいつか両親のように素敵な家庭を築きたいとずっと思っていた」


「…………」


「父は昔から平民のような生活に憧れていて…………母は相当苦労したらしいけど、社交界シーズン以外はあの家に住むようになったんだ」


「そうなのですね……!」


「ウェンディのように、とても努力家だったんだ。二人は互いを思い遣っていた。今でも思い出せるよ……母が病を患う前まではマーサと一緒に料理をしていた後ろ姿を」


「……ゼルナ様」


「結婚するなら、と自分の理想を勝手に押し付けていた……どんな僕でも受け入れてくれる人に出会いたい。そんな思いで馬鹿な事ばかりしていたけど結局、僕は彼女達の所為にして、逃げてばかりいた…………自分が傷付きたくなかったんだ」



ゼルナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。



「ずっと狭い世界で生きていた。隣国で武術をしている時は嫌な事を全て忘れられるから、のめり込んだら強くなり過ぎてしまって……」



更に令嬢達から嫌厭されて拒絶されるばかりで何もかもが上手くいかなかった。



「僕はまだまだ未熟者だ。でもね……上手くは言えないけど、ウェンディと出会って過ごしていくうちに、何が一番大切な事か気付く事が出来たんだ」


「私、ですか……?」


「あの姿の僕を受け入れてくれたからじゃない。あの生活に文句を言わなかったからでもない……ウェンディだから僕は変われたんだと思う」


「ゼルナ様……」


「改めて言わせてくれ。君を心から愛してるよ……ウェンディ」


「……!!」


「僕は絶対に君を裏切らない……命尽きるまでずっと」



力強い声が耳に届くと同時に、ゆっくりと頷いた。

自分も同じ気持ちだったからだ。


こうして過去を話してくれたのも、心を開いてくれた証拠だろう。

ゼルナの本当の気持ちが知れた気がして、嬉しくて堪らなかった。



「順番がめちゃくちゃだね……こんな僕だけど、必ず君を幸せにしてみせるから」


「ずるいですッ……!わたくしだって、ゼルナ様の事が大好きですから」


「ウェンディにそう言ってもらえて良かった。僕と一緒に居てくれる事を選んでくれて、本当にありがとう」


「……こちらこそ、私は幸せです」


「ウェンディの為に、もっともっと良い男になってみせるから……!期待しててね」


「ふふっ、今のままで十分ですよ」

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