第47話
(服装と髪型で此処までイメージが変わるなんて……)
とても同じ人物とは思えなかった。
それだけゼルナの変貌ぶりが、信じられなかったのだ。
「勿論すごく、素敵です」
「ありがとう、ウェンディはいつも可愛いけれど、今日は一段と素敵だね」
「…………!!ありがとう、ございます」
「朝食が冷めてしまうね。食べながら話そうか」
自分で椅子を引こうとして思わずピタリと手を止めた。
セバスチャンがにっこりと笑いながら椅子を引く。
ハッとすると「少しずつ慣れていけばいいのですよ」と耳打ちしてくれた。
この屋敷に来てから完璧にしなければと思う反面で、別邸での癖が抜けずに困惑してしまう部分もあった。
切り替えが早いゼルナはさすがである。
セバスチャンは、それを分かった上でフォローしてくれたのだろう。
「お時間はたっぷりと取ってあります。ごゆっくりどうぞ」
「セバス、ありがとう」
「わぁ……素敵!」
「…………」
「こんなお料理久しぶりで……」
目の前には華やかな料理が並んでいる。
自分では作った事がないものばかりだ。
(屋敷の方達と仲良くなったら作り方を教わってみようかしら……!レシピを覚えて、別邸に帰った時にマーサさんを驚かせたいな)
この料理はどうやって作るのだろうと、キラキラと目を輝かせているとゼルナが悲しそうに呟いた。
「……ごめんね、ウェンディ」
「え……?」
「別邸では自分達で何でもしなければならない。殆ど何も説明もない状態で、君にあの暮らしを強要したことを申し訳なく思っているよ」
「!!」
どうやら言葉が違う意味に受け取られてしまったらしい。
弁明する為に急いで口を開いた。
「違います……!」
「ウェンディ、無理しなくても……」
「無理などではありません!私がこんな素敵なお料理を作れたら、マーサさんを驚かす事が出来るのかなと考えていたのですっ!」
「…………!」
「勿論、直ぐに頼む事は無理かもしれませんが、屋敷の方達と仲良くなったら教えて頂けたらな……と」
ゼルナは驚いているのか目を丸く見開いている。
その後、顔を伏せてしまい更に焦ってしまう。
「屋敷に来たばかりなのに烏滸がましかったでしょうか?」
「ううん、違うんだ……」
慌てて言うとゼルナは否定するように首を横に振った。
「君がそう言ってくれる事がとても……とても嬉しくて。ありがとう、ウェンディ」
そう言って子供のような無邪気な笑みを浮かべたゼルナの表情に、キュンと胸が締め付けられた。
いつもこんな風に笑っていたのかと思うと、もっと早く見たかったと思わずにはいられなかった。
(…………か、可愛い)
キラキラと神々しいオーラに目を細めた。
こんな可愛らしいゼルナが素手で猛獣を倒していたのだと思うと信じられない気持ちだった。
「…………眩しいですわ、ゼルナ様」
ラベンダー色の髪と瞳が太陽の光を浴びて幻想的である。
そんなゼルナの隣に自分が立つ姿を想像すると心配になってしまう。
「日差しがつよいかな?カーテンを閉めるかい?」
「いえ、大丈夫です」
「そう……?」
自分を落ち着かせるように慌てて水を飲み込んだ。
たとえ外見が変わったとしてもゼルナはゼルナだ。
「そんなに見つめられると照れるな。気になる……?」
「あの……そういう訳ではなくて」
「ウェンディ、遠慮しなくていいよ。何でも話して?」
「…………では、素顔を隠していた理由を聞いてもいいのでしょうか?」
「勿論だよ」
「どうしてですか……?」
「母譲りのこの顔がコンプレックスっていうのもあって。ほら……父上とは全然違うだろう?」
(ゼルナ様のお顔は、亡くなった夫人に似ているのね……)
ふと伏し目がちに言ったゼルナとテーブルにある見覚えのある仮面を見てハッとする。
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