第19話 ジャネットside⑦
(一応、王族の血を引いているから中身を見てあげたけど、最悪だったわ。いくら地位があったって、平民の様な生活をしなくちゃいけないなんて、絶対に嫌よ!!皆、そう言っていたもの……!)
友人の令嬢達の間でも、ゼルナから送られてくる手紙の内容は最悪だと話した事があった。
まるで平民や侍女のような仕事を強要してくる内容で、それが結婚の条件など、とても信じられなかった。
いくら地位が魅力的でも、今の生活の方がずっとマシだと思ってしまう。
だからこそ今まで誰も手に取らなかったのだ。
それに此方に興味もない癖に、手紙を送ってくるところが気に入らなかったのだ。
以前、話しかけた時も会釈だけしてそのまま立ち去ってしまい、社交性も全くないように思えた。
いつも顔を隠すような不気味な仮面を付けており顔も見えない。
恐らく、噂通り余程顔が醜いか傷があるに違いない。
顔が良過ぎるのを隠しているとも言われているが、たとえ容姿が整っていたとしても、そんな生活を強いられるなら絶対に御免だった。
(きっと貧乏なのね……マルカン辺境伯も相当な変わり者だっていうし、あんなに怖いんだもの。いくら地位があったってお金がなくちゃ!普通に考えて絶対に選ばないわ)
それにマルカン領にお試しでと行った人達は皆、三日保たずに帰ってくると聞いたことがあった。
理由は手紙にある内容が嘘でなく、全て本当だったから。
連れて行ける侍女は一人か二人で、屋敷も古く部屋も狭い。
動物の匂いが充満しており、周りに買い物出来そうな店はない。
シェフすら雇っておらず、全てが最悪だったらしい。
(フフッ、今更この年齢でいい令息に巡り合える訳ないじゃない!残っているのは皆、訳ありのクソ野郎ばっかりよ……まさか自分から平民みたいな生活をしにいくなんて、おかしいわ)
悔しくなって、やけくそでフレデリックと違う身分の高い令息に嫁ごうとしたのだろうが、そんな嫌がらせも自分の首を絞めるような形で終わってしまう。
(ざまぁみなさい、ウェンディ……!今まで幸せだった分、今度は貴女が苦しむのよ!!)
今までゼルナとウェンディが話しているところなど、一度も見たことがない。
それにウェンディはずっと幼い頃から婚約者が居て、フレデリック一筋だった。
令嬢の友達も少なく、情報に疎い為に何も知らなかったのだろう。
(結婚したところで上手くいくわけないわ……!しかも相手は変わり者……天国が一転、地獄に落ちたのよ)
きっと今頃、結婚した事を後悔しているに違いない。
フレデリックと一緒に居るところを見せつけてやろうと思っていたが、自分から不幸になりにいくなんて、よく考えてみたら面白くて仕方なかった。
(きっと泣きながら帰ってくるんじゃない?)
しかし、あの日からフレデリックの態度がおかしいのだ。
(それにフレデリックも何なのよ……わたくしと婚約出来て嬉しくないの?)
話しかけても中身のない返事をするだけで、ウェンディと居た時のような笑顔を見せないところが気に入らない。
ニルセーナ伯爵夫人が強いこだわりを持っているせいで、自分の思い描いているような結婚式を挙げられるかも分からない。
(今日だってわたくしが詰まらない話を聞かされて飽き飽きしていたのにフレデリックは全然助けてくれなかったわ)
それにウェンディ贔屓の母や父の事も気になっていた。
(……何よ、ウェンディ、ウェンディって。お父様もお母様もあんな子より、わたくしの方がずっと素晴らしいのに)
苛々したまま食事を終えて席を立った。
ウェンディの部屋を覗くと、そのまま部屋のものが残っていた。
それから侍女すら連れて行かなかったと聞いて笑いが止まらなかった。
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