第7話 ジャネットside①


物心ついた時から、自分が一番でなければ気が済まなかった。

それは成長した今でも変わらない。


妹のウェンディはいつも「お姉様」と言って後を付いて来る。


「お姉様、とても綺麗ね」

「お姉様、一番すごいわ!」

「お姉様、とっても素敵」


そんな心地よい言葉を当然のように受け取っていた。

ウェンディから褒められると心が満たされていく。


容姿も勉強もマナーも性格も……全てウェンディより優っていた。

当然といえば当然だが、常に上にいる状態が当たり前だった。

それがずっと続いていくと思っていた。



ーーあの時までは



「お姉様、わたし今日、気になる人が出来たんです!」


「え……?」


「とっても素敵で優しいんですよ?それにドレスを褒めてもらって……ふふっ、嬉しかったなぁ」



今まで見た事ないような輝く笑顔を浮かべながらウェンディは言った。

気になる令息が居るのだと嬉しそうに話していた。


(……どうせ上手くいくわけないのよ)


自分だってまだ令息と話す事はあっても、そのような雰囲気になった事はなかった。

他の参加者を牽制しながら吟味している段階だったのに、まさか初めて参加したお茶会でウェンディに気になる人が出来るなど想像もしていなかった。


(有り得ないでしょう……?何度も参加しているわたくしより先なんて)


そんな気持ちを抑え込みながら、ウェンディに問いかける。



「それはどんな方なの……?」


「フレデリック様です」


「フレデリック……?誰よ、それ」


「えっと、ニルセーナ伯爵家の……」


「ニルセーナ伯爵家!?」


「はい、そうです!」


「ふっ……!」


「??」



その名前を聞いて吹き出すのを我慢していた。

ウェンディは無邪気に返事を返したが、自分にとっては論外である伯爵家の令息だった事に安堵した。


それにボンヤリと思い出したのは、地味でいまいちパッとしない顔だ。

たかが伯爵家の令息に満足しているウェンディの気持ちが全く理解出来なかった。


(馬鹿じゃない……?たかが伯爵家の令息に声を掛けられただけで嬉しそうにして)


ウェンディは「お父様とお母様にもお話ししてきます!」と言って走って行ってしまった。

その後ろ姿を見ながら自分に言い聞かせるようにして呟いた。


『わたくしはウェンディとは違う』


妹よりも上に立つのは姉として当然の事だと思ったからだ。

でなければ、ウェンディに負ける事になる。


(狙うのは公爵家の嫡男……いいえ、王族だって大丈夫な筈よ!わたくしはウェンディよりも、ずっとずっと輝いていなければ)


その日から誰よりもお洒落に気遣い、目立つように髪や肌にも人一倍気づかって、大好きなお菓子だって我慢した。

死ぬほど苦しかったけれど、一番キツいコルセットをして努力を重ねた。


横で美味しそうにお菓子を頬張るウェンディを見て、苛立ちを募らせていた。


(……絶対に、わたくしが勝つんだから)


そんな努力が実って、次第にどこに行っても男性の視線を引くようになっていった。

ウェンディではなく、自分にスポットライトが当てられた瞬間……今までの焦りや痛みがどうでも良くなってしまう程に何もかもが満たされた。


「ジャネット、プレゼントがあるんだ」

「君は誰よりも美しい」

「僕と結婚してくれないか」

「いいや、ジャネットは俺と結婚するんだ」


そんな声が耳に届くようになり、お茶会やパーティーから帰ると、ウェンディに自慢する事が日課になっていた。



「あら、ウェンディ……またそんなドレスを着てるの?」


「お姉様……」


「本当、いつまで経っても地味よね」


「!!」

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