第2話


気に入らない事があると癇癪を起こして自分の思い通りになるまで譲らない。

「わたくしの方が」

幼い頃からの口癖は今でも変わらない。


そんな華やかで令息達から人気のある姉を婚約者にしたいと、少し前までは結婚の申し込みが殺到していた。


顔を合わせては「わたくしには釣り合わない」「あの男は全然駄目」と漏らしていた。

姉の傲慢とも取れる発言に母は苦言を呈していた。


「いつか痛い目に合うわよ」


そんな母の言葉を無視して、姉は「アレはダメ、コレはダメ」と結婚の申し出を断り続けた。

誰もが一度は夢に見る王族との結婚を望んでいるのだと知ったのは大分後の事だった。


「いつか王子様がわたくしを見初めてくれるわ」


そんな発言も姉が言えば、本当に実現してしまいそうな気がしていた。


お茶会、パーティー、舞踏会……色々な所に顔を出す度にドレスやアクセサリーを父に強請っていた。

キラキラと輝きを放つ姉を見ながら、自分との違いを感じていた。


しかし結局どれだけ頑張っても王族の誰かの婚約者になる事もなく、姉は次第に苛々して侍女達や家族に八つ当たりする事が増えてきた。


口から出るのは耳を塞ぎたくなる様な言葉ばかりだった。

「あの女が気に入らない」

「どうしてあんなブスが」

「家柄だけが取り柄の癖に」

そんな事ばかり言っている姉が、可哀想に思えて仕方なかった。


そんな思いを見透かしてか、苛立ちの矛先が此方に向くこともあった。

「あんな地味な婚約者、居てもいなくても一緒」

「わたくしは貴女のような負け組にはならない」

「ずっと同じ男で飽きないのかしら」

今思えば、過激な発言の裏には焦りがあったのだろう。


そんな姉と関わりたくなくて、最近は距離を置いていた。


母と姉の口喧嘩も日に日に酷くなっていく。

殴り合いになりそうになるのを止めた事もあった。


父はそんな状況を知ってか知らずか、いつものように愛人の所に逃げていた。

父は口煩い母を毛嫌いしていたが、外に行けば仲の良い夫婦を演じている。


よくフレデリックに言っていた言葉があった。

「仲の良い夫婦で居ようね」

「幸せで温かい関係を作って、子供達を沢山愛していきたい」

無意識に何度も発する言葉は父と母の事を見て、そうなりたくないと強く思っていたからかもしれない。


フレデリックはいつも笑って「そうだね」と話を聞いてくれていたが、今思えば……そんな話、どうでもよかったのだろう。


そして時が経つにつれて、周囲はどんどんと婚約者が出来ていく。

相手が定まってくると、姉に結婚を申し込む手紙も減っていった。

それなのにまだ結婚相手を選り好みしていた。

王族と結婚する事を諦めきれなかったのだ。


しかし、次第に年齢というタイムリミットは迫ってくる。

その結果……姉は"売れ残り"と囁かれるようになっていった。


訳ありな令息や、歳上の貴族達からしか婚約の申し込みが来なくなったと気付いた瞬間に、焦りが出てきたのか、今までとは態度をころりと変えた。


身分の高い令息から連絡を取ってみるものの、今まで姉に言い寄っていた令息達にはもう婚約者がいた。


母の「だから言ったのに!」という声が響いていた。

そんな母に苛立ちを露わにしては、文句を吐き散らす。


(だからって、人の婚約者に手を出すなんて……信じられない)


目の前が真っ暗になった。


人は、あまりにも衝撃を受けると言葉が出なくなると、どこかの文献に書いてあったが、どうやら本当のようだ。

頭と体が切り離されたようだった。


心は軋んで悲鳴を上げていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る