声に恋する声フェチくんは、声優志望の美声お姉さんに出逢った日から、メインヒロインを選べない。

創つむじ

序章

第1話 プロローグ ―椅子取りゲーム―

 

 椅子取りゲームを始める。

 

 

 椅子はひとつ。

 参加人数は——仮に五人としよう。

 


 勝利条件は椅子に座ること。

 もちろん椅子は一人掛けだ。

 


 勝者は座ることができたただ一人。

 座れなかった残りの四人が敗者となる。

 


 分かりやすくていい。

 要するに、他の連中より優れていれば勝者となれるのだから。

 


 

 しかし何を隠そう、俺は椅子を奪い合う側の参加者ではない。

 

 取り合われた挙句、腰を据えられる側の椅子だったのだ。

 


 これは困る。

 非常に困惑している。

 

 明確な基準に従って動くのではない。

 ある程度の目的を持って勝ち獲ろうとするわけでもない。

 

 


 だがこれはゲーム勝負事だ。

 

 座ってもらう人間を椅子が選ぶゲームなのだ。

 

 五人の参加者の中から、たった一人のパートナーを選ばなければならない。

 

 五人に優劣をつけ、一番相応しいと感じた相手とだけ、本当の意味で繋がれる。

 



 参加者の皆が皆、本気で勝利を目指しているなんて思わなかった。

 

 だけど彼女らにも求める理由があったのだ。

 

 周囲に散らばる椅子ではなく、ゲームの中心に置かれている椅子を欲する理由が。

 

 


 より早く、より確実に椅子へと歩み寄ろうとする参加者達。

 

 これはどうやら、参加者同士が争う以上に重要なことがあるらしい。

 

 それは椅子を引き寄せること。

 つまり椅子を呼んで距離を縮めるのだ。

 

 全方位から誘い文句が飛び交う。

 椅子自身に動く理由を与えようとする。

 

 進む方向を定める基準は椅子次第。

 行動する為の目的も椅子次第。

 

 椅子にとっての正解はない。

 誰を選んでも、恐らく間違いではない。

 

 ただし、四人の敗者を決定することになる。

 それが椅子側に委ねれた資格だった。

 

 


 今更だ。

 今までだって目を逸らしてきた人達がいるのだから。

 

 このゲームが終われば、また次が始まる。

 きっと別の椅子が真ん中に置かれ、入れ替わった参加者達で取り合いが起こる。

 むしろ今の参加者だって、隣のゲームでは椅子なのかもしれない。

 

 そう、椅子はただ決めるのみ。

 触れ合う相手にどの参加者を選ぶのかを。

 

 誰に勝者として喜んでほしいのかを……

 

 




 それにしても、人生はままならない。

 

 俺は今まで椅子を探すだけの人間だった。

 

 どうしても手に入れたい椅子を見つけて、ゲームに参加する理由にしたかった。

 

 自身で望んだものを勝ち取るのは、さぞ誇らしかろう。

 

 そんな勝者になりたかった。

 

 お払い箱扱いなんてごめんだ。

 

 だから自分なりの規準を探した。

 

 本心から惹かれる何かを求めた。

 

 その結果、椅子になっていた。

 


 少し端折はしょり過ぎたか。

 

 


 俺はすでに見つけていたんだ。

 

 好印象を抱く際に見ているものを。

 

 純粋にして明確な要因を。

 

 気付いてからは色んな椅子を吟味した。

 

 己の物差しで椅子を測る日々だった。

 

 好みの傾向なら分かる。

 自分の感性に頼るだけ。

 深く考えたりはしない。

 


 そしてようやく巡り会えたんだ。

 俺にとって人生最高の椅子と。

 

 よし、これでゲームに参加できる。

 そう思った矢先に、大きな障壁があった。

 

 不覚にも尻込みしてしてしまう俺。

 

 本当にこれはゲームになるのだろうか。

 始まる前から勝ち目が見えてこない。

 

 でも揺れ動いた心はどうにもならないのだ。

 

 


 葛藤の最中、ゲームは開始されていた。

 俺は参加者ではなく、椅子の役割だった。

 


 こんなの予想してない。

 なんでこうなるんだよ。

 


 しかし椅子はあくまでも椅子。

 自ら掴みに行くのではなく、座りに来る相手を待つだけ。

 


 だったはずなのだが……




 参加メンバーもルールもおかしくない!?

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