第45話 毛受愛沙は決意を固める
「その気力があったから、景子さん、
そっちの話に行く?
「だって、愛沙ちゃんだって
「いや、あれは」
毛受愛沙がかわいらしい声で言いわけする。
「景子さんの食べっぷりがあんまりにも
は?
……漢っぽい……?
「一人で来てたら、半分でリタイアしてたと思います」
それで、その、本来リタイアしていたはずの残りは無理して食べたんだ。
酸素不足になっていたのはそのせい……。
景子が反省したような言いかたで言う。
「じゃあ、悪いことしたかな?」
ぜんぜん反省してないけど。
「いえぜんぜん」
毛受愛沙が強がる。
おいしそうに、今度はクリームだけすくって食べた。
景子も食べる。
うん。
「青いの」、いいんだけど、「青い」ってことに全力を投入している感じで、味のバリエーションはやや乏しいめだ。
でも、クリームはおいしい。
牛乳の脂肪分を、どうやってるかはわからないけど、ちゃんと使ってるんだな。
「最後まで食べてですね」
毛受愛沙が語り出す。
「なんで生姜と醤油か、っていうのがわかったんです。たんに強烈な味を二つぶつけただけじゃないんだ、って。それに、あの、豚のとろっとしたのって、入ってたじゃないですか? あの甘さが、生姜と醤油のあの強さに負けないんですよ。いや、よく考えたメニューだな、って思って」
ふふっと笑って、目を細めて景子を見る。
「だから、もう一回、食べてみたいといまは思います。それ、景子さんが、とっても普通なペースで完食してたのを見てなかったら、感じられなかったですよ、そんなこと」
「あ、いや」
ことばを失う、というのは、こういうことだろう。
こういうことでなくことばを失うこともあるだろうけど。
時間をかけていると口のなかがぼろぼろになりそうだったから、そうなる前に、と思って、できるだけ早く口に運んでいたのだが。
それで毛受愛沙が「もう一回」食べて、酸素不足で倒れたりしたら、どう責任をとればいい?
「もう一回食べるかどうか、よく考えたほうがいいと思う」
「いえ。もう一回、行ってみます!」
毛受愛沙は固く決意を語る。
遠回しに、注意する。
「そのときはもうわたしはいっしょに行けないからね。今日は、たまたま店で出会っただけ、ってことになってるから」
「わかってます! 今日の景子さんの食べっぷりを思い出して、がんばります!」
これはダメだ、と思った。
やがて、あの生徒指導用の秘密情報の毛受愛沙の資料には「秋麺の生姜醤油ラーメンを食べて呼吸困難、救急搬送される」とかいう一項目が加わることだろう。
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