第44話 塩パフェの恐怖

 そこで、毛受めんじょ愛沙あいさに、その恐ろしい食べもの「塩パフェ」について教える。

 「普通のパフェのレシピで砂糖を入れるとこになっているところをぜんぶ塩を入れるの。それも、量、おんなじだけ」

 うまく行かないところはあったので、いろいろ変えてはいたのだけど。

 「載せるフルーツもぜんぶ塩漬け、チョコレートもさぁ、カカオ九〇パーセントとかの苦いチョコレートを買ってきて、とかして、塩入れて、っていうのをやって、何食べても塩辛いの。しかも、塩って砂糖ほど溶けないから、塩のつぶが残ってて、ざりざりざりって感じで、壮絶な味」

 「はあ」

 その壮絶な味について聴きながら、毛受愛沙は冬みかんをスプーンですくって口に入れている。

 しあわせそうだ。

 「そんなもの、だれが作ったんですか?」

 完全に、他人ごとだな。

 それでいいんだけど。

 そんなのは自分ごとにならないほうがいい。

 「わたし」

 かんはつを入れず答える。

 毛受愛沙はぱちぱちと目をまたたかせる。

 「でも、食べたのも景子けいこさんですよね?」

 「ま、食べさせる相手は別にいたんだけど」

 ふふっと笑いが上がってきた。

 「さっきの愛沙ちゃんと同じでさ、ひとに食べさせる以上、自分も食べなきゃ、って試食してみたの。で、もう、とんでもなかったからさ。食べさせるときには、量を半分にした」

 「それ」

 毛受愛沙はクリームとグレープフルーツか何かのシロップ漬けをスプーンに載せて、顔をしかめてきく。

 「何かのばつゲームですか?」

 「そのとおり」

 毛受愛沙は一発めで真相を言い当てた!

 「その、東京明珠めいしゅ女子実業専門学校でね」

 ……長い名まえだ。

 「文化祭でクイズ大会やったのよ。で、全問正解だととってもおいしい何かが出るんだけど、まちがい率最高のひとには、罰としてその塩パフェが出るっていう、ね」

 「ふうん」

 毛受愛沙はふしぎそうにする。

 「明珠女って、すごいんですね」

 「ああ、いやいや、違う違う」

 景子はあわてて否定する。

 「それは東京明珠女子実業専門学校のこと」

 やっぱり名まえが長い!

 「ここの明珠女とは経営がいっしょってだけで、校風とかぜんぜん違ってたから」

 少なくとも「成績がよくておとなしい」という学生たちではなかった。

 景子を含めて、半分くらいの子は「成績がいいふり」「おとなしいふり」はできた。

 でも、そこまで。

 「わりと学校厳しくてさ。羽目はめをはずせるのはその文化祭のときだけだったんだよね。それでそんな悪乗りしたんだけど……学年二番の美人っていう子がそれにあたっちゃってさ」

 たんに「二番めに美人」というのではない。投票で「美人」に選ばれたら何をしてもいいというシステムがあって、それで二番めの票を集めた子だ。

 たしかにきれいな子だったが、根性はない、勉強もしない、したがって成績も悪いという子で、どちらかというと「だったらせめて美人に選んでらくをさせてあげよう」という同情票で二位になった。

 別にその子にいやがらせをするためのクイズ大会ではなかったけど、知識もなく考える習慣もなく考える根性もないその子が誤答率一位になる可能性は考えておくべきだった。

 ……と、いまになってみれば、思う。

 「半分食べたところで泣き出して。みんなで、はいはい、って慰めて。学年で一番の美人って子も来てなぐさめて。でも、わたしはもとのサイズで完食してるんだよ? それを半分にして、またその半分で泣き出して。根性なさ過ぎ、って思った」

 景子は第三位美人だったので、第一位と第二位の攻撃が自分に集中したらどうしよう、と心配したけど、第一位の美人の子からは

金沢かなざわさん、量を半分に減らすって決断をしてくれてありがとう」

というおめのことばをもらった。

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