第4話 「ここの学校は一貫教育か」問題

 「瑞城ずいじょうは中学校高校一貫教育だもんね」

 愛沙あいさはすかさず反応した。

 「一貫というのとはちょっと違うと思いますけど」

 そして、今度はさっきより長く、くすんくすんくすん、と笑う。

 何?

 毛受めんじょ愛沙のわなにかかった感じ?

 何が違うのだろう?

 景子けいこは就職面接でここは中高一貫だという説明を受けた。

 知っていることを言う。

 「でも、試験なしで高校に進めるんでしょ?」

 「GSジーエス以外はね」

 愛沙が今度は笑ってからまして答える。

 「つまり、進学コース以外はただで進めますよ」

 高校の進学コースのことを「GS」と言う、という説明もきいていた。「グローバル・アンド・サイエンス」の略だそうだ。

 でも。

 試験なしで進学することを「ただで進む」と言うのだろうか?

 そして、GSに行くには試験が必要だから、一貫じゃない、ということ?

 それに、くすんくすんくすんと笑って言うこと?

 愛沙は続ける。

 「でも、高校のほうがずっとクラス数多いから、高校から入ってくる生徒のほうが多いですし、だいたい、ですね」

 愛沙はかわいらしくもったいぶる。

 「中学校で成績のいい子はだいたい逃げてしまうんです。つまり、ほかの高校に」

 つまり、もっと進学実績のいい、偏差値へんさちの高い学校に行くのだろう。

 そこが「一貫」と違う、というのが愛沙の主張だ。

 でも、こう言われると、答えに困る。

 「逃げなかった愛沙ちゃんは成績よくなかったんだ」とも言えないから。

 だから、景子が黙っていると

「あ、いや、ところで」

と愛沙のほうが先に言った。

 「金沢かなざわさんは卒業生じゃないですよね?」

 「成績のいい子はだいたい逃げる」ということも知らなかったのだから、卒業生のはずがない。

 正直に答える。

 「それどころか、ここに来たのも初めて」

 ついでに言うと、この県に来たのも初めてだ。

 言わないけど。

 「採用面接も東京で受けたから」

 「あ」

と愛沙が言う。

 「東京から来たんですね!」

 言って、愛沙は目を輝かせ、またかわいらしさと色っぽさを振りまいている。

 百年前ならともかく、いまの時代、東京から来た、なんてことが、こんなに感動するように言ってもらうようなことかな?

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