第45話「ナルコレプシー」

 熊田さんとの積み付けは楽だった。

 もともと1人半くらいの仕事量なので二人でやれば余裕でできる。


 たまに、ダンボールを詰める機械の調子が悪くなり、フタが開いてしまい、積み付けの横にある机でグルーガンという物を使うとダンボールを閉じることができた。


 ダンボールの補充は検査の人がやるのだが、やり方に上手、下手があり、下手なひとがやるとダンボールがよく開く。

 検査の人は日替わりで、今日は下手な人だった。


「今日は斉藤さんが検査だから大変だよ」

 熊田さんが武田に話す。

「斉藤さんって、上手くできないんですか?」


「ちょっと変なんだよ。ダンボールの補充を忘れたり反対に入れたりするんだ」

「入ったばっかりなんですか?」

「いや、もう二年くらいかな? いまだに仕事をちゃんと覚えてなくて、よく怒られている」

「二年だったら、そろそろ仕事を覚えないとならないですね」


「そうなんだ。年配の女性達もイライラしているし、坂本班長も何度も斉藤さんを注意して、今度何かあったらクビにするって言ってるんだ」

「そんな人なんですか? 僕も坂本班長には怒られるけど、クビとは言われたことはないですよ」


「ははははっ、俺はクビにするって言われたよ」

「熊田さんが?」

「そう。俺もそろそろやばいんだ。だいたい、この会社の男性の期間社員は長くはもたないんだ。俺がいま5年目で1番長いくらいだ」

「そうなんですか!? 女性は30〜40年働いている期間社員の人がいっぱいいるみたいですけど……」


「女の人は重たい物は持たないから……」


「やっぱり腰ですか?」

「そう、だいたいぎっくり腰になって辞めるんだ。ここで、一緒に積み付けしてた人もぎっくり腰が2回目でギブアップだ」

「二人でやってると、そんなに腰にはこないですけどね」


「二人ならね……誰かが休んだりすると、坂本班長が来て、『悪いけど今日は1人でやってくれ』っていうんだ」

「それはキツイですね」


「ここの積み付けも何人かで回るんだけど、空ビンを入れる仕事もあって、ペットボトルなら楽勝だけど、ガラスのビンの時は最悪で忙しいし重たくて1日やったらへとへとだよ。武田さんも機械のオペレーターをやっていたら体が楽だったのにね……」


「僕もオペレーターだったらと思ったんですが、三島さんがあんまり教えてくれないんですよ」

「はははははっ、三島さんは、変わっているからね。たぶん、武田さんに自分の仕事を取られるのが嫌だったんだと思いますよ」

「やっぱり。そんな感じがしました」


「三島さん、潔癖症で何度も手を洗うし、話しても会話が噛み合わないんですよ。それで、自分の仕事が早く終わると休憩室でスマホでゲームしてるんです。俺もさぼって休憩室によくいるけど、三島さんも多いな〜」


「三島さんに仕事を聞いても説明書を読んでくださいばっかりで、本当に困ったんですよ」

「たぶん、三島さんは大人の発達障害ってやつだと思いますよ。勉強はできるらしくて大学も出てるみたいだけど、人とのコミニケーションが上手くいかず、ラベルを貼っている人とは仲がいいみたいですけど、他の人とはほとんど話しをしないんです」


「あ〜っ、それか!? 前にラベルを貼ってる人と話していたら、三島さんがここに来たらダメって、ラベルの人と話してるとなんどもダメだって言うから、変だなと思っていたんですよ」

「たぶん、自分と仲の良い人が取られるのが嫌だったんでしょう」

「ケツの穴の小さい人ですね」


「ちょっと変わってるでしょう。でも機械のオペレーターをやってると坂本班長にも何も言われないから、オペレーターを取られたくなかったんじゃないかな?」

「ケツの穴の小さい人ですね!」


「今日の検ビンの斉藤さんも、けっこう変わっていて、人と話しが噛み合わないし、仕事中に良く寝るんですよ」

「寝る? 居眠りですか?」


「ナルコレプシーって病気らしくて、カクッと寝てしまうんですよ。病院で薬ももらっているけど寝てしまうんですね」

「そんなことしていたら、坂本班長は怒鳴りだすんじゃないですか?」

「なんども怒られてますよ。でも治らないから、クビかな? 前なんか、酒を入れる空のプラスチックのケースを入れてる時に、空ビンが入っているのに流して、空ビンの上に中身の入った酒のビンがぶつかって割れ、三島さんが激怒したこともあるんですよ」



 そんなことを話しながら、仕事が始まったら、斉藤さんは本当に寝ていた。

 1分くらいでハットして起きるのだが、なんどか寝ているのを見かけた。


 ダンボールも反対に入れて機械が止まったり、きちっと入ってなくてダンボールのフタが開く物が続出した。

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