第29話「腎臓の行」
武田は、何件か求人に応募して履歴書を送ったが、返事が来るのは、一週間から10日後くらいと時間がかかった。
スーパーのお惣菜を作る仕事に応募して、履歴書とハローワークでもらう紹介状を送ったが1ヶ月経ってもなんの返事も無かった。
酒を造る工場は面接をしたが、2週間たっても返事がこなかった。
❃
金曜日、早坂さんの健康法教室。
今日のお客様は武田一家3名と、
中年の背広を着た男性1名の合計4名である。
「さて、今日は何をしましょうか、何かありますか?」
早坂さんがみんなを見る。
背広の男性が何か言いたそうだ。
「あなた、何か、こんなのが知りたいと言うのがありますか?」
早坂さんが男性にたずねる。
「えぇ〜と、私は会社員なんですが、疲れが抜けなくて困っているんです。疲れが取れる方法なんてありますか?」
「疲れですか、それなら”腎臓の行“が効果があると思います。今日はそれをやりましょう」
会社員のリクエストで腎臓の行をすることになった。
「腎臓は血液をろ過してオシッコを作る臓器です。腎臓の機能が衰えるとなんとなく体がスッキリしなくなります」
早坂さんはヨガマットに仰向けになり、両膝は曲げて、左の背中に自分の左手を入れた。
「こうやって左の肋骨の下に自分の左手を甲を上にして入れます。腎臓は肋骨の一番下あたりにあるのですが、手がもっと上にあがる人は上からやったほうが効果が高いです」
そう言って、早坂さんは左手の甲に力がかかるようお尻を床から浮かせて体を左に傾けた。
「左手の甲に意識を集中させます。時間は5~10秒くらいです。そして、左手を段々と下にしていき、お尻を押します」
肋骨からお尻まで5~6か所に分けて押していた。
「左が終わったら、次は右側を同じようにやります」
早坂さんの説明を聞いて4名はヨガマットの上に仰向けになり、同じようにやってみる。
「お尻は浮かせないでやってもいいですよ。お尻を浮かせるのは強いやり方です」
早坂さんが、みんなの動きを見ている。
会社員の男性は動きがぎこちない。
タケルは、体をクネクネ動かして遊んでいる。大人の硬い体とは大違いだ。
「無理しないで、できるとこまででいいですよ。時間も最初は短めでいいです」
早坂さんが、ひとりひとりに手の位置や体の傾け方を教えている。
「早坂さん、右手がぜんぜん上がりません」
「武田さん、まだ五十肩が治ってないんですよ。肩は意外と治りづらいんです。手が上にあがらない時は、マクラやクッションを背中に入れます」
そう言うと、早坂さんは武田の右の背中にクッションを入れた。
「クッションで背中を圧迫して下さい。右側は肝臓がありますから肝臓ももんでやると体が楽になりますよ」
早坂さんは、肝臓の行も教えたが、みんな腎臓に夢中で気づいていない。
会社員の男性はいびきをかいて寝ている。
武田もいびきをかいて寝ていた。
「おやおや、寝ちゃいましたね。起こすのも可哀そうだから、寝かしておきましょう」
マナミとタケルが腎臓の行を終えて、お茶を飲んでいると、会社員の男性と武田が目を覚ました。
「すいません、寝てしまいました」
会社員の男性が早坂さんに謝る。
「いやいや、いいんですよ。この技はやってると寝る人は多いです。夜に眠れない時にやるのもいいですよ」
❃
今日の講習会を終えて帰る武田一家。
「タケル、何が食べたい?」
「ハンバーグ!」
「またハンバーグか、それじゃーいつものファミリーレストランだな」
講習会の後は食事をするのが恒例になり、 武田の運転で近くのファミリーレストランに向かった。
マナミがサラダバーを取っている時、
左の背中の中が動いているのがハッキリと分かった。
(なにこれ、何かが動いている)
ファミリーレストランの席に戻るマナミ。
「お父さん、あたしの背中が動いているの!」
「背中? 何か付いているのか?」
「外側じなくて中よ、中!」
「中って……そんなところで動くったら、あれじゃないのか?」
「あれ? あれって?」
「いま、めし食ってるから……」
「あ〜っ、あれか……でも、動くのが分かるなんて初めてよ」
「詰まっていたんだろう」
「…………」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます