第68話:処分の内容。

 陛下がようやく謁見場に姿を現し玉座に着座する。入場からは礼をして床を見ている状態なので、表情をうかがい知ることは出来ないが。いまから実の息子を裁かなければならないのだから、心中穏やかではないのだろう。


 「皆の者よく集まってくれた。――では、ヘルベルトの処断を始めよう」


 衆目に晒される中、近衛騎士の人たちに囲まれて件の人物が謁見場へとやって来た。難しい顔を浮かべて自身の息子を見下ろす陛下。

 王族がアレな行動を取りまくっていたし、あれを放置すれば王家への求心力が下がってしまうので、息子に対して厳しい態度を取るしかない。少し頬がこけているけれど身なりは綺麗にしているので、酷い環境下には置かれなかったのだろう。


 「っ! ――父上っ!」


 そこは陛下と呼んであげようと、心の中でため息を吐く。拘束されたまま騎士に囲まれて、玉座の下に連れてこられた第二王子殿下の第一声がコレだ。

 周囲の落胆ぶりもすごいけれど、国王陛下の顔もすげーことになっている。ああ、もうこりゃ駄目なのねと、諦めの境地。


 「黙れ、ヘルベルト」


 「ですがっ、私は……俺はっ! アリスをどうしても助けたいのです!」


 後ろ手で拘束されている騎士を振りほどかんとばかりに、前のめりになっている殿下。周りはこの状況を静かに見守っているだけなので、殿下の独り相撲に見えて仕方ない。


 「その女を助ける為ならばどんな処罰を受ける覚悟が貴様にあるという事か?」


 「勿論ですっ! 彼女が救い出されるのならば、俺はどんな罰でも受けましょう!」


 「そうか。――だがあの女を幽閉塔から出すことはならん」


 「……では、では……俺は、どうすれば」


 「ああ、そうだなヘルベルト。お前は王族籍から外れ、その女と一生を幽閉塔で過ごすのだ」


 「え?」


 まだ恩情でもあると考えていたのか、きょとんとした顔を浮かべる第二王子殿下を見た陛下がゆっくりと一度目を閉じた。陛下の言葉に周囲の人たちがざわりと口々に何かを言い始めた。


 「温い」


 「陛下はまだ見捨てておらんのか……」


 「……情に厚いのは良いことではあるが」


 確かに温い処分である。彼を生かして孕める女と過ごすということは、子を産む可能性が残り将来どんな火種を起こすかわからない。

 その辺りを考えられない人ならば、国王陛下なんて職業には就けないので何か策があるのだろう。騒ぎ立てている人たちは、爵位の低い人や重要な役職に就いていない人が多い気がする。


 「俺は……彼女と、アリスと一緒に過ごせるのですか?」


 ヒロインちゃんが王族とその側近を誑かした重罪人だという認識は彼にはないようだ。恋は盲目とよくいったもので、本当に何もかもが見えなくなっている。


 「これで貴様の望む形になったか」


 「はっ、はいっ! 父上……いえ、陛下の恩情に感謝いたしますっ!!」


 陛下のこの言葉に何か裏がありそうだなあと、勘ぐっているのは私だけではない筈だ。

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