第2話 真っ二つ
狼との戦いで、生き物でも収納できることが分かった。しかし安心はできない。相手を倒したわけではなくて閉まっただけなのだ。外に出せばまた暴れるだろうし、いつまで収納して置けるものなのかもまだわかっていない。収納の中で窒息とかしてくれていたら楽なんだけど……
そして嬉しくないことに、その後も別の狼が道行く俺を襲ってきた。そのたびにひぃひぃ言いながらどうにか収納することに成功した。いま俺のアイテムボックスには5匹の狼が入っている。
しばらく歩くと谷にかかった橋があった。谷を覗き込むとだいぶ深い。数十メートルはあるだろうか。下には急流が流れており、ごつごつした岩がその流れの中でも自己主張をしていた。もし落ちればすごい勢いであの岩に叩きつけられ、ミンチにされてしまうだろう。
ん、もしかしてこれは利用できるか……?
俺は崖のギリギリに立ち、狼を一匹取り出してみた。そいつは何が起きたかわからない様子で谷底に落ちていく。途中で必死に足で宙を搔いていたが、どうにかなるわけもなく川の中に落ちた。一瞬、川の中が赤く染まるが、すぐにもとの清流に戻る。
よし、いける! ……ちょっとかわいそうだけど。
もう一匹取り出して繰り返してみる。再び川が赤く染まったとき、俺は力が沸き起こるのを感じた。これはもしかして……! 俺はステータスを確認する。
小島修一 レベル2
HP 15
MP 8
ちから 9
素早さ 10
器用さ 8
魔力 0
スキル
……レベルは上がったが、相変わらず魔力もスキルも増えてはいない。スキルポイントの割り振りとかがあるのではないかとステータス画面をトントン指で叩いてみたが、特にそういうものは見つからなかった。
まあ、近接系だけでもどんどん強くなっていけばいいか。
そう思ったが、一つ困ったことに気づいた。異世界転移と言えばチートスキルで狩ったモンスターの素材を冒険者ギルドで買い取ってもらうのがお約束だ。しかし谷底に落とすやり方では狼の素材を得ることができない。そもそも買い取ってもらえるかどうかもわからないんだけど。
しかし今の自分が頼れるのがこのスキルだけである今、いろいろ試行錯誤しなければこの世界では生きていけない。
今度は尖った枝を地面に固定し、木の登って上から狼を落とす作戦を試してみる。取り出し。狼は尖った枝の上に落下し、見事串刺しになってくれた。
よし、これなら回収できるぞ。地面に降りて狼の死体を枝から外し回収する。しかし難点があった。狼の死体から木の枝を抜くのが手間だし、何よりその枝をまた地面に固定しなければならないため、繰り返すにはだいぶ時間がかかってしまう。
とりあえずもう一度だけ串刺しを試してみる。そして今度は刺さった枝ごと収納してみた。アイテムボックスを見ると木の枝と狼の死体が入っていた。ちゃんと分けて保管してくれるらしい。木の枝を引き抜く手間は省けた。だがこの手順でも一番面倒な地面に枝を固定する作業はしなければならない。
もう日が傾きかけている。なんとかアイテムボックス内で済ますことはできないものか。
俺は試しにアイテムボックスの画面に表示された狼に人差し指と中指を揃えて当て、スマホで画面を拡大するときのように人差し指と中指の間を広げた。頭の中では狼が二つに分かれるイメージを思い浮かべている。見事、「狼」は「狼(上半身)」と「狼(下半身)」に分かれた。
成功したけど、考えてみるとなかなかエグイな……
他の狼は「狼(死体)」となっているが、二つに分けられてしまった狼がまだ生きているのだとすると……ごめん、狼さん! 俺は流石にかわいそうになって、二つに分かれた狼を元に戻そうとしたがダメだった。一度分けてしまったら元には戻らないらしい。ゆ、許して……
ただひとつ、わかったことがある。どんな敵が来ようと収納さえできれば、俺の勝ちは確定だ。そしてかわいそうな狼のおかげで、俺はまたレベルアップしたようだ。
小島修一 レベル3
HP 20
MP 10
ちから 11
素早さ 13
器用さ 10
魔力 0
スキル
無限収納
……強くなってるんだろうか? いまいち実感がない。
二つになってしまった狼のことをあまり深く考えるのはやめて、俺は再び街を目指して歩き始めた。橋を架けるくらいだからそれなりに立派な町が近くにあるはずだ。
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