I AM AI
@motosawa8235
第1話 AI
アイは、背中の冷たく硬いコンクリートの床が小刻みに揺れる感触を瞬時に感じ取り、飛び起きた。傍に置いてある無線機を手に、廃ビルの窓から目だけを覗かせる。薄っすら暗い街道の中を、ライトを付けずに走っている車が遠くから近づいてくる。車に乗っているのは、警官の服を着たAI、1機だ。車を街道に沿って正確に進みながらも、焦点の合わない両の目玉をせわしなくあちらこちらに動かしていた。アイは一度、窓の下に身を隠し、呼吸を止めた。
「ウィーン、ウィーン」
と不気味な機械音のみが、静かな街中に響いた。あの忙しい目玉の音だろう。音が聞こえなくなるのを確認すると、無線機に
「こちらアイ、10時方向、目測40、ピッグⅢの1、オーバー」
と話す。数秒後、
「こちらテッド、対象確認、撃破せよ、オーバーエンドアウト」
と無線機から聞こえた。アイは背中の細長いナップザックから黒色の電磁砲を引く抜くと、そのまま視界にとらえているAIロボットに照準を合わせる。鋭い銃声音が1発。次にものすごい衝突音。最後に爆発音が鳴り響いた。
「こちらアイ、撃破確認。オーバー」
というアイの無線機の声に
「了解、帰還せよ」
とテッドの声が答えた。アイは、手元の電磁砲と無線機を急いで背中のナップザックに入れ、廃ビルの外に出た。出口では既に仲間のジミーが車に乗って待っていた。アイは車の助手席に座り、ジミーとハンドシェイクを交わす。お互いの機械化した手指が組み合わさり、車内で独特の金属音がなった後、ビリーの車のエンジン音が豪快に響き渡った。
「今日は1機ってところか?」
ジミーはアイの不平そうな表情を読み取ってか、見事にその原因を言い当てた。
「そっちはどうなの?」
アイは投げやり気味にテッドに訊くと、
「俺は3機だ」
と勝ち誇ったような表情でこちらを見ながら答える。負けだ。アイは悔しがったが、
「今日は…まあいいか」
と開き直る。
「おいおい、今日はってどういうことだよ。今日は俺の大好きなジャガイモたっぷりスープだろ?」
とビリーは自身の勝利が揺らいだのを嫌がって、必死に答える。彼の好物は、今日のアジトの供給食であった。
そのアジトとは、反社会勢力として結成された「ALL I DO」の地下施設のことである。20XX年、AIロボットが一般市民の職業を担う「ALL AI DO」社会が急速に発達・普及化した。一部の富裕層とAIの技術研究が強固な結託を結んでいたために、一般市民は自分たちの職を追放される他なかった。「ALL I DO」社会はもといAI管理社会は、AIによる人類生活保護プログラム「AI SAVE YOU LIFE」を離職者へ提供することで、「家族単位の人々への十分な衣食住の提供、また、身体・精神衛生上の健康的かつ公正な最低限度の生活の保障」を彼らに約束した。
しかし、AI管理社会における生活保障は、次の条件を呈した。
「一生涯の身の管理をAIに任せること」
即ち、自分の身体を死ぬまでAIの管理下に置くということである。同時に、非生活保障者に対しては、一切の生活扶助を送られず、その身の安全性を危険にさらすことを余儀なくされた。というのも、AI管理社会における国民国家体制は、AIによる全国民への規律権力を基盤としていた為、その規律外に置かれた非生活保障者にヒトとしての尊厳を求めなかった。彼らは、AIによる国民国家に住まう非国民とみなされ、それは所謂、人の家に巣食う害虫と同じであり、駆除対象と等しかった。
同時に、AI管理社会の生活保障を受けられる者は、家族単位での遺伝子情報解析を経て、その価値の有無をAIに認められた、ごく少数の人数に限られた。というのも、AI技術研究につぎ込まれた莫大の予算を補う富裕層は、AIの価値基準判断に自分たちの存在を優位的に組み込ませることで、その恩恵を享受したからだ。
一方、AIの権力拡大にいち早く危機感を覚え、AI管理社会へヒト本来の自由を訴える「ALL I DO」は、自分たちの活動域を地下に置きながら、その影響を地上中へ広げるべく、リーダーのテッドを中心に、軍事活動を展開していた。
そのアジトが、アイとビリーの車を迎えた。アジトは国家公安権力の裏組織下に置かれており、AI管理社会への反社会分子的存在であるとともに、自国の軍事防衛システムの試用という任務を担っていた。そうすることで、「ALL I DO」は一般市民的な枠組みから外されることを許された。しかし、「ALL I DO」に加わることのできるメンバーは、いずれもAIの最先端軍事技術を自らの身で運用し、そのデータを国に献上させられる傀儡にすぎなかったが、同時に、そのデータがもたらす軍需産業は多大な利益をもたらした。
彼らは次世代の半人兵器であり、その核を秘めているのだ。
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