第7話 フィオリーナとの接触
僕がメグからフィオリーナの乙女心とやらの説教を喰らった翌日。
僕とメグは医療施設区間に来ていた。
理由?
勿論、フィオリーナに僕の記憶を思い出して欲しいからだ。
メグと一緒に来たのはフィオリーナを混乱させない為。
そして、メグもフィオリーナと話をしたいからだった。
医療施設区間には何度も訪れているので、僕は顔パスだ。
病棟の方に行ってみると驚いた事にフィオリーナは看護婦姿で動き回っていた。
僕は駆け寄りたいのを我慢して、メグ1人で行って貰う事にした。
メグはフィオリーナに近づくと笑顔で手を振った。
フィオリーナはメグに気づいてパタパタと嬉しそうに駆け寄って来た。
「フィオリーナちゃん!」
「メグさん!」
2人はしっかりと抱き合った。
久しぶりに会った親友のように。
「フィオリーナちゃん、もう看護婦をしても良いの?」
「はい、メグさん。権藤先生にも許可を貰えました」
心配そうなメグにフィオリーナが笑顔で答える。
「そっかぁ。フィオリーナちゃん、今って大丈夫?」
「はい。今は備品の確認作業をしているだけですし。それに」
「それに?」
メグはかなり心配そうに尋ねる。
「権藤先生からも無理はするな、と言われてますし」
「それなら安心だね。ちょっとお話しよ?」
そう言ってメグはフィオリーナの手を取って休憩コーナーに移動する。
うーん、やはりフィオリーナがメグの面倒を見てるようにしか見えない。
僕も2人から距離をとりながら休憩コーナーに移動する。
「メグさんはコーヒーで宜しいですよね。ホットで」
「うん。それと」
メグが何かを言いかけるとフィオリーナは「判ってますよ」と笑顔になる。
「ブラックですよね。とっても苦ーいの」
「さすがフィオリーナちゃん。判ってるぅ」
2人はコロコロと笑い合う。
そんな2人を見ていると僕まで微笑ましくなる。
しばらくするとフィオリーナがお盆に乗せたコーヒーセットを持って来て休憩コーナーの机に置く。
「お待たせ致しました」
そう言ってコーヒーカップにコーヒーを注ぐ。
コーヒーの良い香りが僕の鼻孔を
メグも満足そうに香りを楽しんでいる。
「ありがと。アタシって、この見た目でしょ? いつも言われちゃうのよねぇ。子供がブラックなんていけません、って」
「あら。でもそれは仕方ないかも」
メグは聞き捨てならぬ、というようにフィオリーナに詰め寄る。
「えぇー。フィオリーナちゃんもそれ言う?」
「冗談ですよ。メグさん」
そう言って2人は目を見合わせ、またコロコロと笑う。
ホントに女の子って、よく笑うよなぁ。
はっ、まてよ? これがメグが言ってた乙女心ってヤツかも。
僕は慌てて端末に入力して行く。
「んー。やっぱりフィオリーナちゃんの淹れてくれたコーヒーは美味しい!」
フィオリーナはそんなメグを可笑しそうに見ている。
「施設のコーヒーですから。誰が淹れても同じだと思いますけど」
するとメグはちょいちょいと「こっちに来い」と言うように手招きする。
それを受けてフィオリーナは身を乗り出す。
「・・・それがね。違うのよ」
メグは重要機密を話すような口ぶりになる。
「えっ、何がですか?」
フィオリーナもひそひそ声になる。
「コーヒーの味よ。可愛い娘が淹れると3割増しになるの。ちゃんと研究結果にも出てるわ」
「ホントですか?」
ビックリしたようなフィオリーナを見てメグがほくそ笑む。
「冗談よ。決まってるじゃない」
「もぉー。メグさんったらぁ!」
そして、また2人で笑い合う。
何かメグが親父ギャグを言うオヤジに見えてきた。
そんな僕の背後からいきなり声がする。
「何をしてるんだ、お前は?」
「うわっ!」
僕は大きな声を出しそうになるのを手で口を
声をかけて来たのは権藤だった。
「ビックリさせるな!」
僕は小声で権藤に文句を言う。
「だから、お前は何をしてるんだ? 不審者にしか見えんぞ」
権藤は僕を問い詰める。
僕はちょいちょいと2人を指さす。
「フィオリーナの様子を見に来たんだよ。メグと一緒に」
「ほぉ、メグちゃんとか。なるほどな」
権藤は2人を見て納得する。
ちなみに権藤はメグの実年齢も精神年齢も知らない。
メグの事を12歳の少女だと思っている。
メグの実年齢と精神年齢は僕以外では数人にしか教えていない。
メグは見た目は可愛らしいので相手はメグの事を子供だと思い込み、口を滑らせ重要機密のような事も話したりする。
僕はそれを利用してメグにスパイのような事もして貰っている。
これは僕が強要している訳では無い。
メグも面白がってやってくれている。
メグに言わせれば「コンピューターより人間の方が面白い」のだそうだ。
「そうだよ。僕の姿を見たらフィオリーナが混乱するだろ」
僕は相変わらず、ひそひそ声で権藤に説明する。
「確かにな。お前の施設の方でもフィオリーナの記憶障害の原因は判らなかったのか?」
「原因は判ったが対処法が判らん。医者のお前なら理解できるだろ?」
「まぁな。人間の脳の場合は海馬体と大脳皮質だが記憶に関しては未だに未知の部分が多いからな」
権藤は腕を組んで考え込む。
「だからメグを連れて来たんだよ」
「うむ。今のフィオリーナには子供が相手の方が良いかも知れないな」
そう言って権藤は2人の方へ歩み寄って行く。
権藤の姿を確認したメグはフィオリーナに「ナイショだよ」と言う感じで目配せする。
フィオリーナも「判ってますよ」と目で合図する。
「やぁ、メグちゃん。よく来たね」
「あ、権藤先生。お邪魔してまぁす」
メグは12歳の少女に成りきっている。
その変わり身の速さは僕でさえ舌を巻く程だ。
権藤はメグのコーヒーカップを見て眉を
「メグちゃん、何度も言ってるが君の年齢ではブラックは良くない。ミルクと砂糖を入れなさい」
「はぁい。ごめんなさぁい」
メグは権藤に向かって、テヘペロをする。
メグのテヘペロは抜群の破壊力を持っている。
権藤は「やれやれ」と言う感じで今度はフィオリーナに声をかける。
「フィオリーナ、君の方は大丈夫かい?」
「はい、あたしの機能に関しては問題はありません。権藤先生のお陰です」
そう言ってフィオリーナは頭を下げる。
そんな2人の対応に権藤は満足気な笑みを浮かべる。
「それじゃ、メグちゃん。フィオリーナの話し相手になってあげてね」
「はぁい、判りましたぁ」
メグは満面の笑みで答える。
権藤はメグに「ごゆっくり」と言ってから自分の職場に向かう。
メグは権藤の姿が見えなくなるのを確認してから態度をガラリと変えてフィオリーナと向き合う。
「フィオリーナちゃんにちょっと質問があるんだけど。もしAIに少しでも負荷がかかるようなら、ちゃんと言ってね」
「はい、なんでしょう?」
フィオリーナは少し緊張した顔つきになる。
メグはコホンと咳払いをしてからフィオリーナに尋ねる。
「フィオリーナちゃんは「丸子ロッシュ」と言う人に対して何か心当たりは無い?」
つづく
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