第51話 わかっていること、いないこと
〈綾乃視点〉
誰も居なくなった生徒会室でソファに座ったまま天井を仰ぐ。
「なんでこうなっちゃうかなぁ」
間違えないように気をつけていたはずだった。初対面の人との接し方は生徒会長として色んな人と接するうちに学んだ。零斗の妹だからってことで緊張はしてたけど、接し方を間違えたりはしなかったと思う。少なくとも悪印象を与えるような行動はしなかったはずだ。
だとしたら考えられるのは……そもそもオレが嫌われてたって可能性だ。零斗の妹に嫌われてたとか普通にショックなんだけど、それしか考えられない。
こんなこと言うのはなんだけど、生徒会長としてのオレは人に好かれてる方だと思う。高原さん……はちょっと過剰だけど、それでも大多数の生徒からは好かれてるはずだ。
だってそういう風に振る舞ってきたんだから。それでもオレを嫌う人がいるとすれば、オレに生徒会長選挙で敗れた人とかなんだろうけど。菫さんはそうじゃないし。だとしたら考えられる理由はやっぱり零斗のことなんだろう。
「私を零斗の彼女として認めない……か。そう言われるかもとか昨日ちょっと想像はしたけど、言われると思った以上にショックだなぁ」
こう、お腹の奥にズンと来るというか。なんとか平静を装ったつもりだけど、言われた瞬間は頭が真っ白になった。正直、今もショックを引きずってる。
どうすれば良かったのかなんてずっと考えてるけど答えはわからないままだ。
「追いかけた方が良かったのかな」
「それは止めておいた方が良いと思いますけどぉ」
「っ!?」
不意に聞こえてきた声に反射的に身を正す。
そうか。しまった、すっかり忘れてた。さっき菫さんが出て行った時のままにしてたから扉が開いたままだったんだ。そんなことも忘れてたなんて。
「あなたは……夢子さん? コホン、すみません。少しだけ気を抜いていました。何か生徒会に用事でもありましたか?」
「最初はそうだったんですけどぉ。今は後回しで良いです。それより菫ちゃんとのことが気になりますからぁ」
「……もしかして見ていたんですか?」
「偶然ですけど。そこで零斗先輩とお話してた時に生徒会室から飛び出していく菫ちゃんの姿を見ちゃいまして」
夢子さんの言葉に頭を抱えそうになる。よりにもよってその場面を見られてたなんて。しかも夢子さんにだけじゃなく、零斗にまで。
「あ、ちなみに零斗先輩は菫さんの方を追いかけていきましたよぉ」
「そうですか。なら良かったです。私が追いかけるよりも効果的でしょうから」
嫌ってる相手から追いかけられるよりも零斗が来てくれた方が菫さんも嬉しいだろうし。
「……少しは嫉妬するかと思ったんですけどぉ。自分の方に来てくれなくて良かったんですかぁ?」
「それは……」
本音を言うなら少しだけ思わなくもない。だけど今のこの状況でそれを言うのは我が儘だってわかってるし。何よりも生徒会長としてのオレはそんなことを言ったりしない。
「状況を考えれば菫さんに嫌われている私が追いかけるよりも零斗が追いかけた方が良いでしょうから。別に何か思うことはありませんよ」
「綾乃さんってなんでもできる人だと思ってたんですけどぉ、意外な弱点発見ですぅ。色恋沙汰は苦手だったんですねぇ」
「え?」
まさかそんな言葉が返って来るとは思ってなかったオレは思わず目を丸くする。
色恋沙汰が苦手って、まぁ確かに得意とは言えないけど。今のオレの返答、何か間違ってたのか?
「どういうことですか?」
「わたしは菫ちゃんと綾乃さんの間で何があったかなんて知りませんけどぉ。菫ちゃんのことは綾乃さんよりちょっとだけ知ってます。ちょっぴり感情表現が苦手で、素直になれないけど、その実はお兄さんのことが、零斗先輩のことが大好きな女の子だって」
「それは私もわかっています。彼女と少しではありますけど、お話はしましたから。そこから彼女の人となりはわかっているつもりです」
「いいえ、綾乃さんはわかってません。まぁ無理もないことだとは思いますけどぉ。でも、今回の問題を解決するとしたらそれはきっと零斗先輩じゃなくて、綾乃先輩と菫ちゃん自身だと思いますよぉ」
「私と菫さん自身……」
結局オレがわかってないことが何なのかは教えてくれなかったけど、夢子さんの言った問題を解決するのがオレと菫さん自身だっていう言葉だけは妙に心に残った。
「ちょっと差し出がましいことを言っちゃいましたかぁ? よく事情を知らないくせにって思ってます?」
「いえそんなことは。あなたの言った言葉は確かに受け取りました。参考にさせてもらいます。それにしても、そんなアドバイスができるだなんて夢子さんは経験豊富なんですね?」
「それはもちろんですぅ。今まで色んな人から話を聞きましたからぁ。恋愛の事なら恋愛マスター夢子にお任せですぅ!」
「え?」
それって単に耳年増なだけでは?
いや本人には言わない。言わないけどさ。参考になったのは本当だし。
だけどよりわからなくなった。これからオレはどうするべきなんだろう。
「ふふっ、大丈夫ですよぉ。綾乃さんと菫ちゃんはよく似てますからぁ」
「それは……どういうことですか?」
オレと菫さんが似てるって。性格も全然違うし、似てるところなんてむしろ少ないと思うんだけど。
「さぁ、どういうことでしょうねぇ?」
そう言って笑う夢子さんは結局言葉の真意を教えてはくれなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます