第35話 恋とは盲目なもの
ショッピングモールに行ったら何をしようか。あれをしよう、これがしたい。
綾乃も零斗も、そんなことを考えている間にあっという間に放課後を迎えた。部活連合の会議も終わった後であり、細々とした仕事はあるものの特に忙しい時期では無かった。
ゴールデンウィークが終わってしまえば中間テストに林間学校などなど生徒会が取り纏めるべき仕事も増えてくる。
今の時期が生徒会役員達に与えられた猶予の期間でもあった。
帰りのSHRが終わった後、部活やバイトへと向かう生徒達が足早に教室を出て行く中、綾乃は他の生徒の目も気にせずにまっすぐに零斗の元へと向かった。
「帰る準備はできましたか?」
「ん、あぁ。もう大丈夫だけど」
「良かったです。それじゃあ行きましょう零斗」
いつになく上機嫌な様子の綾乃は周囲のクラスメイトの目も気にせずに零斗に声をかけた。今までにそんなことが無かったせいで、教室に残っていたクラスメイト達は何事かと言うような目で綾乃と零斗のことを見ていた。
しかし、零斗との初放課後デートに浮かれきっている今の綾乃はそんなクラスメイトの様子にまるで気づいていなかった。だが、零斗はクラスメイトからの突き刺さるような好奇の視線に気づいていた。朝のように誤魔化すべきかと考えた零斗だったが、当の綾乃が今の状態では上手い誤魔化し方も思いつかなかった。
そして少し悩んだ末に零斗は――。
「そうだな。行くか」
諦めることにした。ここで変に誤魔化す方が面倒なことになりかねないと思ったからだ。もしそれで何かあったなら、あった時に考えれば良いと割り切ることにしたのだ。
視線と聞こえてくる声を無視して鞄を持って立ち上がった零斗は綾乃と一緒に歩き出す。
「最初はどこから行きましょうか」
「まだ着いてもないのにその話をするのは早くないか?」
「ふふ、すみません。でも私すごく楽しみで」
「まぁその気持ちはわかるけどな。俺だって朝から色々と調べ直したし」
「それなら案内は期待してよさそうですね」
「万事任せとけ、とまでは言えないけどな」
そんな話をしながら教室を出て行く二人。
その仲睦まじい様子を見て、教室に残されたクラスメイト達は綾乃達が出て行った途端にざわざわと騒ぎ出す。
「え、何。なんなの今の感じ」
「あの二人って生徒会長と副会長って立場だけど、あんなに仲良さげだったっけ?」
「もしかして桜小路さんと白峰君って付き合ってるの?」
「えーマジ? だとしたらちょっとショックなんだけど。白峰君のことちょっと狙ってたのに」
「いやいや。まだそうと決まったわけじゃないだろ。だって桜小路さってサッカー部のキャプテンからの告白も断ってるんだろ? さすがに白峰じゃ釣り合ってねぇって」
「じゃあお前はもっと無理だな」
「うるせっ!」
綾乃と零斗の親密そうなやりとりにあーでもないこーでもないと勝手な憶測を言い合っていた。
そんな会話を更紗といずみは横で聞いていた。
「あーあ。綾乃ってばめちゃくちゃ浮かれてたね」
「そうだね。零斗君とあそこのショッピングモールに行くっていうのは聞いてたし、すごく楽しみにしてたけど」
更紗達は綾乃から零斗と一緒にショッピングモール、愛ヶ咲スターシティに行くことは聞いていた。おすすめの場所はないか聞かれたので、いくつか綾乃に更紗チョイスのおすすめスポットを伝授していた。
「二人ともなかなか予定が合わなくてデートできてなかったみたいだし、浮かれちゃう気持ちはわかるよ。でもまさかあそこまで他の人の目を気にせず動くなんて」
零斗と付き合っていることを言いふらす気はないが、特別隠すつもりもないというのは綾乃から聞いていたが、それでも綾乃の人気ぶりを考えれば言わない方が賢明だった。
もし綾乃に恋人ができたなんていうことが大きく知られれば学園中に激震が走るだろう。
「バレても綾乃は気にしないんだろうけどさ、バレたら白峰君が大変そうだよね」
「うん。綾乃ちゃん自分がどれだけ人気かってことをちゃんとわかってない気がするし。でも、あんなに楽しそうな綾乃ちゃんは初めて見たかも」
「だね。恋は人をあそこまで盲目にしちゃうんだねぇ」
「…………」
「ちょっといずみ、なにそのあたしがそれを言うのかみたいな目」
「あ、あはは別に何も言ってないよ? ちょっとだけ思ったけど」
「思ってんじゃん! 言っとくけど、あたし別に透にベタ惚れってわけじゃないからね! 透の方があたしにベタ惚れなんだから。あーもうホントに困っちゃうくらいに!」
「どっちもどっちだと思うけど……」
「なに!」
「な、なんでもないよ。とにかく、今日が二人の初デートってことにになるんだよね。ほんとなら後ろからついて行って観察したいくらいだけど、それはさすがに無粋だし我慢しないとだよね。明日綾乃ちゃんに色々聞かなきゃ」
「……いずみってたまにさらっと怖いこと言うよね。というか、そんなに恋バナが好きなら自分も彼氏作ればいいのに。告白されたことが無いわけじゃないでしょ?」
綾乃や更紗ほどではないものの、いずみもモテる。告白されたのも一度や二度じゃない。だがいずみは誰の告白も受けたことはなかった。
「わたしはいいの。自分の恋愛には興味がないから。二人の話を聞くだけでいい、というよりもその方がいい」
「ほんとに変わってるというか。まぁいずみがそれでいいならいいんだけど」
「さてと、わたしも今日は買い物して帰ろうかな。更紗ちゃんは久瀬君と帰るの?」
「ううん、今日は用事があるんだって。バイトもないし、今日はいずみと一緒に帰ろうかな」
「やった♪ じゃあ行こう更紗ちゃん」
「オッケー。あ、それじゃあいずみの買い物終わったら喫茶店寄らない? この間良いお店見つけたんだよね」
「うん、いいよ。じゃあそこで更紗ちゃんと透君のショッピングモールデートの話を聞かせてもらおうかな」
「結局それなの!?」
未だに綾乃達のことでざわついているクラスメイト達を尻目に更紗といずみは教室を出たのだった。
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