第32話 放課後デートの約束

〈綾乃視点〉


 零斗と付き合い初めてから二週間ほどが経った。

 付き合う……恋人……うぅ、なんだか今でも口にするのは恥ずかしいけど。でも悪い気分じゃない。

 オレと零斗が付き合ってるっていう事実は、あまりおおやけには知られてない。オレが付き合ってることを伝えたのも、姉さんと更紗、いずみの三人くらいだ。

 別に隠してるわけじゃないけど、積極的に広めるようなことでもない。気づく人は気づくだろうけど、まぁ聞かれたら答えればいいだろうくらいな気持ちだ。

 更紗からは極力隠した方が良いみたいなこと言われたけど。じゃないと零斗が危ないとかなんとか。なんでオレと付き合ってることを広めたら零斗が危ないってことになるのかがわからないけど。

 二週間も経てば少しは浮ついた気持ちも落ち着くかと思ってたけど、全然そんなことは無かった。今でもまるで夢の中にいるみたいだ。

 ここ最近は朝一緒に登校するのもお馴染みになってきて、毎日学園に行くのがすごく楽しみになった。

 そして現在、四月の最終週。つまりゴールデンウィーク直前の週ってわけだ。

 零斗と付き合ってから初めてのゴールデンウィーク……オレは特に用事とかあるわけじゃないけど、零斗の方はどうなんだろ。家族と一緒にどこかに行ったりするのかな。

 デ、デートとか……ちょっと興味あるかも。

 これまでの週末は中々予定が合わなくて一緒に出かけたりはできなかったし。

 ゴールデンウィークのこと……零斗は何か考えてくれてたりするのかな?

 こうやって一緒に朝登校するのも好きだし、学園では同じクラスだから一緒に居れる時間も多いけど。でもやっぱり普通の恋人らしいことにも興味がある。

 つまり端的に言えば、零斗と一緒にどこかに行きたい。

 そんな思いを込めて零斗の方を見ていると、零斗がその視線に気づいてくれた。






〈零斗視点〉


 不意に隣から視線を感じて目を向ける。するとやっぱりと言うか、綾乃がジッと俺の方を見ていた。

 綾乃の澄んだ目に見つめられると、思わず心臓が高鳴る。もう付き合いだしてから二週間は経つって言うのに未だに慣れない。


「どうかしたのか?」

「いえ、別に用事があったわけじゃないんですけど。あ、そういえば零斗は週末何してたんですか?」

「週末は特に何もしてなかったぞ。宿題やってゲームして寝てって感じだ。あ、でも妹と一緒にショッピングモールに買い物には行ったな。ほら、この間二駅くらい隣にできただろ?」

「そういえば結構大きなショッピングモールができてましたね。私はまだ行ったことないんですけど。そっか。菫ちゃんと一緒に行ったんですね……」

「あぁ。まだできたばっかりだからなのか、結構色んなイベントやってたりしてて面白かったぞ。有名人も来てたりしてたな」


 集客に相当力を入れてたのか、今話題のアイドルや芸人なんかがイベントやってたりして驚いた。

 ショッピングモールの広さも相当なもので、俺好みの店も多かったから時間を潰すにはもってこいの場所だろうな。一日二日じゃとても回りきれない。


「いいですね。私も更紗やいずみに誘われたりしたんですけど用事があってまだ行けてないんです。でも、やっぱり生徒会長として一度は行っておくべきだと思いませんか?」

「? なんで生徒会長としてなんだよ」

「だって、この学園からも近いしですし。休みの日とか行く生徒も多いんじゃないかと思いまして。どんな施設があるか一応把握しておかないと」

「そういうことか。確かに若者向けって感じの店も多かったな。あの場所的に愛ヶ咲学園以外の学校からも行く人多そうだな」

「ゴールデンウィーク中に行く人も多いでしょうし、注意喚起くらいはしておくべきかもしれませんね」

「ゴールデンウィーク……そういえばもうそんな時期かぁ。部活連合の会議とかもあって忙しかったからすっかり忘れてたな」


 部活連合の会議……噂には聞いてたけど、かなり大変だった。うちの学園は部活動とかにも力を入れてるから、全国常連の部活とかもいくつかある。競い合いと言えば聞こえはいいけど、部活間のバチバチなんかもザラだしな。それを全部纏めて今年の部活動の指針なんかを決めなきゃいけなかったからかなり大変だった。

 だいたいなんで部活のことまで生徒会で面倒見なきゃいけないんだって感じなんだが……まぁそれもうちの伝統なんだろう。

 部費を増額して欲しいと願う部長達を抑えて正しい配分をしなければいけない。贔屓なんてもってのほか。

 これは俺達の学園特有の事情でもあるけど、俺と綾乃が外部入学生だってのも会議が大変になった理由に一つだ。部活の部長達はほとんどが内部進学生だったからな。正直あれを捌ききった綾乃の力量がわかるってもんだ。

 なんとか乗り越えたけど、正直かなり疲れた。もう二度とあんな思いはしたくない。


「あの会議はさすがに大変でしたね。少しだけ骨が折れました」

「あれを少しだけ骨が折れたで終わらせられる辺りさすがだな」

「零斗や他のみんなのおかげですよ。それでその……一つ提案なんですけど。もし良かったら放課後にショッピングモールへ行きませんか?」

「えっと、今日の放課後ってことか?」

「はい。あ、無理にとは言わないんですけど。予定があるなら私一人でも大丈夫ですので」

「あそこに一人で行くつもりなのか? 平日とはいえ、放課後なら結構な人だと思うぞ?」

「そんなに心配しなくても小さな子供じゃないんですから大丈夫ですよ」


 ダメだこいつ何もわかってない。綾乃ほど人目を惹くような奴があのショッピングモールに行ったら絶対に声を掛けられる。それだけじゃない。もしかしたら強引に、なんてことになりかねないし。

 ダメだダメだ! 絶対に一人じゃ行かせられない!


「俺も行く」

「え? 行ってくれるんですか?」

「生徒会長が行くなら副会長も一緒じゃないとな」

「それだけですか?」

「……彼女を一人で行かせるのが心配だから、俺も一緒に行く」

「ふふっ、零斗は心配性ですね。わかりました。それじゃあ一緒に行きましょう。約束ですよ?」

「あぁ、わかった」


 急に上機嫌になった綾乃を見て、思わず笑みが零れる。

 週末に行った時は菫について歩いてただけだったから、あんまりどんな施設があるのか知らないんだよな。

 放課後になるまでに少し調べておくか。

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